【スタッフ視点の知財ブログ(19)】
10月も中旬をすぎ、東京でも、GOTOトラベルが始まり、GOTOイートも始まりました。
GOTOトラベル、GOTOイートに対しては賛否両論がありますが、
実施するからには、コロナ禍で大きな打撃を受けた観光業界、飲食業界の活性化の起爆剤となってもらいたい!
と願わずにはいられません。
ただ、まだコロナ禍の影響があるので、人との接触を少なくするような対応や技術が必要とされています。
そこで、今回は、スタッフMさんに、
一人でも楽しめる飲食業界の発明「回転ずし管理システム」について報告してもらい、
その発明を例にして、特許権を取得するための要件の解説をしていきます。
これを読むことで、ビジネスモデル特許の概略が理解でき、かつ
- 特許権を得るためのには次の5つの特許要件を満たす必要があること。
産業上利用可能性がある発明であること。新規性がある発明であること。進歩性がある発明であること。先願の発明であること。公序良俗を害する発明でないこと。
なお、ビジネスモデル特許では、そもそも「発明」に該当するかどうかに注意すべきこと。 - 特許「回転ずし管理システム」に対しては、進歩性がある発明でないと判断され、拒絶理由がなされたこと。
その理由として、従来技術の特徴と大きく変わらない(単なる設計事項)と判断されたこと。 - 拒絶理由に対応する方法には、次の3つがあること。
反論のみを行うこと。補正を行いながら反論すること。権利化をあきらめること。
特許「回転ずし管理システム」 においては、反論のみで権利化したこと。
反論の趣旨は、従来技術の特徴からは、特許「回転ずし管理システム」の特徴は容易に導き出せないことを主張したこと。
が理解できるようになり、
ここで説明した特許要件を念頭に置くことで、より特許性のある出願を行うことが可能になります。
少しでも知財の力を活用していただければ幸いです。
一人でも楽しめる回転ずしのシステムには、IT技術が満載!
世界で最もポピュラーな日本食、
人が集まる食卓の真ん中で主役を張る食べ物・・・それはおすし。
みんな大好き、勿論私も大好き、そして回転ずしのスシロー大好きスタッフMです。
スシローの人気の高さのポイントとして、
庶民にやさしく、美味しい、品数が豊富、期間限定キャンペーン、アプリでまいどポイントが貯まるなどが挙げられると思います。
個人的には、
- 1名でもアプリ予約ができるからぼっちでも平気、
- シャリがあまり大きくないから色々なネタが楽しめる、
- キャラクターの「だっこずし」がかわいい、
などが、お気に入りの理由です。
*「スシロー」、「だっこずし」及び右図の標章は、株式会社あきんどスシローの登録商標(登録番号4769261、登録番号5831310及び登録番号5831311)です。
タッチパネルで注文するスタイルは当たり前ですが、
注文したまぐろがコンベアで運ばれ目の前にストップしたときの当初の衝撃といったら・・・。
一体どんな仕組みになっているのか、
コンベアを流れ続けたお寿司の見分けや処理はどうしているのか、といったように、疑問がつきません。
つい、調理場に秘密が隠されているのではないかと覗いてみたい衝動に駆られていました。
そこで、大好きなスシローがどんな独自の特許をもっているか、
特許情報プラットフォーム(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)でちょっと調べてみました。
すると、ありました!
「回転ずし管理システム」(特許第3607253号)。
これは、スシローのホームページにも掲載されており、
商品の種類ごとに廃棄されるまでの移動距離が設定され、
それ以上の距離を進んだものは自動廃棄されるシステムで、
環境が変化しても商品を適切に管理することができます。
スゴイ技術ですね!
システム系の小難しい説明を理解するのは苦手ですが、
この公報の図面(右図)は見てるだけでも面白く、
なんとなく発明がわかったような気になります。
いやはや、寿司皿にICチップが付いており、
メニュー立てには発信回路部分が設けられていたなんて、
驚嘆です。
手に取るお寿司は新鮮でなければならず、
コンベア上に鮮度の落ちたお寿司が残っているようなら
大問題です。
この問題に対して、
スシローのようなスピード重視の大型の回転ずし店では、
従業員の人の手だけで対応するには無理があり、特に混雑時はミスが生じる懸念があります。
そこで、上述した特許「回転ずし管理システム」があることで、
お客様が安心して新鮮で美味しいお寿司を堪能できるというわけです。
勿論、スシローの従業員のみなさんのおもてなしの精神が前提だと思いますが。
・・・と書いているうちに無性にスシローに行きたくなってきました。
もう、・・・週末はスシローで決まりです!
回転ずしの発明を例とする特許権を取得するための要件の解説
特許権を得るための要件とは??
弁理士須藤:確かに、回転ずし屋さんでは、握られたお寿司が、コンベアに乗せられた皿で運ばれるので、人との接触回数を減らすことが可能ですね。
また、お寿司がコンベアに載せられて移動するといったパフォーマンスは1人でも楽しめる要因かもしれませんね。
しかし、Mさんがスシロー大好きとは知りませんでした・・・。
・・・
さて、今回は、前述した特許「回転ずし管理システム」を例にして、
特許権を取得するのに必要な要件である特許要件を解説していきます。
まず、
「発明」とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なもの」と、特許法で定義されています。
しかし、「発明」であってもすべてが特許権となるわけでなく、
以下の5つの特許要件をすべて満足する必要があります。
- 産業上利用可能な発明であること。
特許制度が産業の発展に寄与することを目的としていることによります。
このため、いわゆる「医療行為」に該当する人間を手術、治療又は診断する方法の発明、喫煙方法など個人的にのみ利用される発明、学術的、実験的にのみ利用される発明、理論的には実施できる可能性があっても、 実際上、明らかに実施できない発明などは除外されます。 - 新規性がある発明であること。
日本国内又は外国において、特許出願前に公然に知られず、実施されておらず、かつ刊行物に記載されてもいない発明である必要があります。 - 進歩性がある発明であること。
その発明の属する技術の分野の「当業者」が、先行する技術に基づいて容易に発明することができないことが必要です。
当業者が容易に発明をすることができたものについて特許権を付与できてしまうと、
やはり技術進歩に役立たず、かえってその妨げになるからです。 - 先願の発明であること。
先に出願された特許出願などに記載された発明と同一でない必要があります。 - 公序良俗を害する発明でないこと。
遺伝子操作により得られたヒト自体など、
公の秩序、善良の風俗又は公衆の衛生を害するような発明でない必要があります。
スタッフM:特許要件というと、このようにたくさんの要件があるのですね。
もちろん、いずれも重要だと思いますが、
敢えて3つだけ選ぶとすると、どの要件となるのでしょうか?
弁理士須藤:そうですね。
どれも満足しないといけないのですが、敢えて言うなら、
通常、特許出願を依頼する際には、
産業上利用可能な発明であること、新規性がある発明であること、進歩性がある発明であること、に最も気を遣う必要があると私は考えています。
というのは、先願の発明であることは、発明を実現する具体的な構成で回避できる場合もあります。
また、公序良俗を害する発明でないことは、容易に判別できないものであれば、
時代により変化する要因もあるので、個別に発明の中身で具体的に判断する必要があるからです。
ちなみに、特許「回転ずし管理システム」は、いわばビジネスモデル特許と言われる特許に該当します。
その点からは、上述しませんでしたが、そもそも「発明」に該当するかどうかについて気をつける必要があります。
スタッフM:ビジネスモデル特許だと、「発明」に該当しない場合が多いのでしょうか?
弁理士須藤:そうですね。ビジネスモデル特許は、コンピュータソフトウェアを活用する場合が多く、この観点で、「ハードウェア資源」を使用しないで記載してしまうと、「自然法則を利用していない」と判断されるからです。
なぜ、審査官から拒絶された??
スタッフM:この特許「回転ずし管理システム」は一度、
特許にできないとする通知(拒絶理由通知といいます)を受けています。
この通知を受けた理由はなんだったのですか?
弁理士須藤:特許「回転ずし管理システム」は、当初、上述した特許要件のうちの、進歩性のある発明とは認定されなかったのです。
具体的に説明すると、
この特許の最大の特徴は、
お寿司の載った皿の走行距離を管理して、
お寿司の種類に応じて定められた距離以上を走行したお寿司を廃棄するようにしています。
これに対して、それまでの回転ずしでは、
お寿司がコンベア上に配置されていた巡回時間やお寿司が何回コンベアを巡回したかの巡回回数をカウントして、お寿司の品質管理をしていました。
つまり、審査官からすると、走行距離で管理することは、従来行われていた巡回時間や巡回回数で管理することと大きな違いはないと判断し、特許にできないとする拒絶理由通知を出したのです。
スタッフM:なるほど、そうなんですね。
確かに、巡回時間や巡回回数でお寿司の品質管理をするのと、走行距離で管理するのにそんなに違いがないように思えますね。
そうなると、審査官の出した拒絶理由通知が妥当であったように思えます。
特許権を取得できた理由は??
スタッフM:となると、
特許してもいい、という判断を審査官から得るのは結構難しかったのでしょうね。
どうすることで権利化できたのでしょうか?
弁理士須藤:Mさんも知ってのとおり、拒絶理由通知に対しては以下の3つの対応が可能です。
- 1つ目は、拒絶理由通知に対して反論だけを行い、
審査を請求した当初の特許請求の範囲を変更(補正)することなく、
そのままに権利化できることを主張するものです。 - 2つ目は、拒絶理由通知に対して、反論を行いながら、
審査を請求した当初の特許請求の範囲を補正して権利化できることを主張するものです。 - 3つめは、拒絶理由通知に対して、反論せずにそのまま権利化をあきらめるものです。
このうち、スシローでは、1つ目の反論のみを行うことで、見事に特許権を取得しています。
反論の主旨は、巡回時間や巡回回数でお寿司の品質管理をするのと、走行距離で管理するのには、
大きな違いがあることを主張しています。
スタッフM:そうなんですか・・・
私はてっきり、2つ目の補正を行ってなんとか権利化されたのかと思いました。
弁理士須藤:確かに、補正は審査官の言い分も認める側面もあるので、補正を行わない場合に比べて、権利化される可能性が高くなります。
だから、実質的な発明の範囲を狭めることなく、形式的に補正を行い、迅速に権利化を狙うことも多々行われています。
が、今回の反論では、特にお寿司に当たる風の影響に着目しています。
この風の影響を考慮すると、お客さんの人数の増減に応じてコンベアの経路長を変更したとき、コンベアのスピードを変化させたときでも、走行距離を用いることで、お寿司の品質変化を従来よりも安定して管理できると主張することで、権利化できたということです。
スタッフM:ということは、スシローのお寿司の旨さは、この特許に秘密があったのですね。
なるほど・・・
じゃ、今度は、そのあたりをちゃんと確認するためにも、
またスシローに行かないければいけないようですね(笑)。
まとめ
特許権を取得するための要件の解説内容は以下のようになります。
- 特許権を得るためのには次の5つの特許要件を満たす必要があること。
産業上利用可能性がある発明であること。新規性がある発明であること。進歩性がある発明であること。先願の発明であること。公序良俗を害する発明でないこと。
なお、ビジネスモデル特許では、そもそも「発明」に該当するかどうかに注意すべきこと。 - 特許「回転ずし管理システム」に対しては、進歩性がある発明でないと判断され、拒絶理由がなされたこと。
その理由として、従来技術の特徴と大きく変わらない(単なる設計事項)と判断されたこと。 - 拒絶理由に対応する方法には、次の3つがあること。
反論のみを行うこと。補正を行いながら反論すること。権利化をあきらめること。
特許「回転ずし管理システム」 においては、反論のみで権利化したこと。
反論の趣旨は、従来技術の特徴からは、特許「回転ずし管理システム」の特徴は容易に導き出せないことを主張したこと。
もし、わからない部分や疑問点などありましたら、
お気軽にぜひコメントまたはお問い合わせください。
なお、アイキャッチ画像は、 photoBさんによる写真ACからの写真です。
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