【スタッフ視点の知財ブログ(8)】
人が日常生活で欠かすことのできないのが3度の食事。
私も、食事でよくお世話になるのが、ご飯の上にさまざま具材を載せた丼物です。
丼物は、短時間でお手軽に美味しく食べれて、しかもコストパフォーマンスも最高です。
そして、
丼物は、提供者のアイデア次第で、美味しくありながら、具材の種類が変わることで、
ヘルシーにも、ボリューミーにも、はたまたインスタ映えする一品に変身させることができます。
こんな便利で、身近な丼物、丼物の提供者(お店)からすれば、
自分のアイデアを保護し、ブランド力アップに活用したい!
という想いもあるのではないかな、と考えました。
そこで今回は、
丼物に関するアイデアを保護し、ブランド力アップに利用したい方に対して、
スタッフAさんに、話題の丼物を調査してもらい、
それに基づいて、
詳しく、丼物が特許、意匠、商標などの知的財産権で保護できる可能性について
説明していきます。
これを読むことで、
- 有名になりかけたネーミングはできるだけ早く、出願し権利化を目指すこと。
- 日本では、特許、実用新案、意匠に対しては、やむなく内容公開してしまってから
1年以内に出願するなら、その出願前の公開した事実で、
新規性を失わなかったことにできること。 - 特許性のあるタレや具材を使用するなら、丼物自体で特許権が取得可能であること。
- 丼物でよく使用する具材をトッピングするだけなら意匠権の取得は困難であること。
- 丼物の見た目は、著作権、商標権、不正競争防止法などを活用して、保護することができること。
が理解できるようになります。
これらのことが理解できるようになることで、例えば、
飲食業を営む方が、オリジナルの丼物のアイデアを保護し、
ブランド力アップで事業の加速化を実現することができます。
少しでも知財の力を活用していただければ幸いです。
最近話題になっている丼物とは??
スタッフAです。
ここ最近、もっとも盛り上がったものといえば、ラグビーワールドカップです。
すでに、南アフリカが優勝をして終わりましたが、
皆さんもご存じの通り、日本は初のベスト8という快挙を成し遂げました!
そんな中、今(ちょっと前となってしまいしたが)、
日本代表の北出卓也選手が考案した「北出丼」が話題になっています。
10月27日に放送されたTBSテレビのサンデージャポンにて、
ゲスト出演された北出卓也選手が「北出丼」をお父様が特許出願する(!?)
とおっしゃっていたのを拝見したのです。
そこで、「北出丼」が権利化できるか以下のように、考察してみました。
ちなみに、「北出丼」の作り方はいたってシンプルです。
炊きたての白米の上に、高菜、明太子、シラス、ねぎ(青ネギが好ましい)を並べ、
そして、卵黄を並べた具材の真ん中に落とします。
高菜 | 明太子 | しらす | ネギ | 卵黄 |
具材を乗せ終わったら最後にごま油を垂らし完成です。
とても手軽、パパッと準備してすぐに食べられて、とてもおいしそうですね。
まず、特許出願であれば、
発明は、高菜、明太子、シラス、ネギ、生の卵黄を白米に乗せ、その上からごま油を加える調理方法
ということになり、
効果としては、
それぞれの素材の栄養価を損なわずに、独特の風味で楽しめるといったところでしょうか・・・
特許法上の発明とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」(特許法2条1項)となっていますので・・・
・・・・
うーん、
でも、この調理方法は、
既に公開されてすでにみんな知っているので新しくないし(新規性なし)、
原材料を単に組み合わせて載せたものでみんなが容易に考えうるもの(進歩性なし)であり、
ちょっと特許権として取得するには難しいかもしれません。
ただ、特許法でなく、「北出丼」を商標出願して、商標権とすることは可能だと思いますよ。
「北出丼」が権利となれば、権利者以外の方が「北出丼」を使用することを防止できるようになるので、不正な真似を防止するのにはとっても効果的だと思います。
あっ、それと意匠出願することも可能だと思いますね。
ただ、意匠権では、同じ素材を使用していても外観が違えば、意匠権侵害だ!
とは言えないと思います。
ま、とりあえず、「北出丼」、今度作って食べてみようと思います!
丼物に対する特許、意匠、商標での保護の可能性の解説
有名になりかけたネーミングはいつ商標出願すべき?
弁理士須藤:Aさんもラグビーにはまったようだね。
というか、惹かれたのは「北出丼」かな(笑)。
というのはさておき、
Aさんの解説していたことはほぼほぼ、あっているよ。
特に、商標については、現時点であれば、「北出丼」を登録することは可能と思う。
ただ、
白米に高菜、明太子、シラス、ネギ、生の卵黄をトッピングしてその上からごま油を加える丼物が、
一般的あるいは慣用的に「北出丼」と言われ始めてしまうと、
権利化は難しいけどね。
スタッフA:そうですか。
じゃ、「北出丼」を商標登録するなら、
なるべく早くしないといけないというわけですね。
弁理士須藤:そうだね。
つまり、
商標出願は、「北出丼」などのネーミングが有名になる前に行い、
権利化することが大切だと、
いうことだね。
誰もが使用することで有名になったあとに出願すると、
だれの商標かわからないので、登録されないといったことが生じるのが理由なんだよ。
新規性喪失の例外適用
弁理士須藤:まず、特許についてだけど、
すでに公表してしまい新しくなくなっても、
日本の場合、最初に公表した日から1年以内に出願すれば、
新規性を失わなかったとみなしてもらえる
例外規定(新規性喪失の例外規定)があるんだよ。
スタッフA:えー、そうなんですか。
そんな便利な規定があるのですね。
弁理士須藤:ただ、これは文字通り、あくまでも例外的に認めらる規定なので、
①基本的に公表した事実の内容(誰がいつどこで何をどのように公表したか)
をすべて書面にして特許庁へ提出する必要がある。
また、②その公表した事実と無関係に他人が自分の出願前に同じ発明を公表していたら、
仮にその例外規定が認められても、やはり新規性というのは確保できない。
これは、その他人の出願のほうが、自分の出願よりも早いことには変わりがないので、
当たり前といえば、当たり前だね。
更に、③この例外規定の期間は、各国でまちまちだから、
外国に出願した際には、例外規定の恩恵を受けれない場合が出てくるんだよ。
このような理由から、
私は、特許出願をする人には、この例外規定には頼らず、発明を公開する前に特許出願をするように奨めているんだよ。
スタッフA:そうなんですか・・・
ちなみに、この例外規定は特許だけに認められるのですか?
弁理士須藤:いや、
実用新案や意匠に対しても適用(日本では、ともに1年間)される。
ただ、商標には適用されない。
理由は、
商標は、特許みたいに創作したものではなく、単に選択するだけのものだからね。
丼物で特許は取れるの?
スタッフA:あの、「北出丼」自体では特許は取れないと思いますが、
丼物で特許が取れる可能はあるのでしょうか・・・
弁理士須藤:例えば、丼物に使用するソースやたれ、加工された具材に特許性があれば、そのソースやたれや加工された具材を使った丼物として、立派に特許権を取得することができるね。
つまり、「北出丼」もそのような特殊なたれなどを使用していれば、「北出丼」自体で特許を取得することができるんだよ。
スタッフA:うーん、
・・・・
あまり、イメージが湧きませんが・・・
弁理士須藤:例えば、
ソースやたれを化学薬品、丼物をその化学薬品を使用する製品
と考えてみたらどうかな。
特許性のある化学薬品を使用した製品に対しては
特許権を取得できることは理解できると思うので、
そこから丼物自体でも特許権が取れることを理解できると思うよ。
スタッフA:なるほど、わかります。
弁理士須藤:ちなみに、
実際には、丼物について特許出願が過去いくつかされてはいる。
でも、見た限りにおいては、それらには特別な特徴が無いようなので、
特許権として権利化されていないようだね。
・・・
うーん、そうね。
実用新案で出願して権利化することは可能だよ。
実用新案権は、
新規性や進歩性といった実態的な審査がなされずに、登録されるからね(無審査登録制度)。
実際に、いくつかの丼物が、実用新案権として登録されている。
ただ、実用新案権は、無審査で登録できる代わりに、
誰かがマネをしている!
といった際に、それを止めさせる(権利行使)ためには、
別に有効な権利であることを特許庁に評価してもらう必要があるんだよ
(これを実用新案技術評価といいます)。
つまり、実用新案権で、本当にその丼物の知財を保護できているかどうかは難しい、
と言わざるを得ないのが実情だね。
丼物で意匠は取れるの?
スタッフA:どんぶりやお箸は、特徴があれば意匠権を取れるとは思いますが、実際に「北出丼」は意匠出願すれば権利は取れるのでしょうか・・・
弁理士須藤:先ほどの例外適用を受けることを前提とすれば、可能かもしれないけど
・・・。
意匠もやはり、創作したものを保護するので、容易に他人が創作できるレベルには、権利は与えられないんだよ。
「北出丼」の具材は、高菜、めんたいこ、しらす、ネギ、卵黄であり、
どれも丼物の具材によく使用されるね。
そして、「北出丼」では、これらは、単に白米の上に普通に載せるだけのようだね。
すると、「北出丼」は、意匠出願しても、権利を取れる可能性は低いといえる。
ちなみに、ご飯もので、意匠権として設定されているのは、
特徴の出しやすい、おにぎり、押し寿司、握り寿司、およびおいなりさんなどで、
やはり丼物が意匠権に登録されている例は見当たらないね。
単に、白米の上に複数の具材を載せるといったことはだれでも手軽にできるし、
さらに、その具材の配置も簡単に変更できる。
このため、白米の上に複数の具材を載せるといった丼物は、
容易に創作可能と判断されてしまうので、権利化することは困難だと思う。
丼物の見た目は知財で保護できる?できない?
スタッフA:じゃ、丼物の見た目、というか具材を並べた状態は、知財で保護することはできないと考えるべきでしょうか??
弁理士須藤:丼物の見た目に、芸術作品という観点があるようなら、
丼物を著作権で保護できる場合があるかもしれないね。
あるいは、
丼物の見た目を図案化して商標権として取得して保護することも可能だね。
なお、商標権として取得しなくても、
丼物の見た目があるお店の提供する丼物の特徴を示していると多くの消費者が知っているなら、
それを真似した人の行為を、
不正行為として止めさせることは可能だね(不正競争防止法による)。
つまり、丼物の見た目を知財で保護することは可能といえるよ。
スタッフA:今後は、インスタ映えの関係で、どのお店の丼物がどのお店の丼物を真似してしている!といったことが容易にわかってしまうと思います。お店ごとに工夫して、
美味しくて目で見てもワクワクすようなオリジナルの丼物がもっと増えていったらいいな
と思います。
まとめ
丼物に対する特許、意匠、商標等での保護に際しての留意点は以下のようになります。
- 有名になりかけたネーミングはいつ商標出願すべき?
できるだけ早く、出願し権利化を目指すこと。 - 新規性喪失の例外適用
日本では、特許、実用新案、意匠に対して、公開されてから1年以内に出願するなら、
その出願前の公開した事実で、新規性を失わなかったことにできる。 - 丼物で特許権は取れるの?
特許性のあるタレや具材を使用するなら、丼物自体で権利化可能。
なお、実用新案権の取得は可能。 - 丼物で意匠権は取れるの?
丼物でよく使用する具材をトッピングするだけなら困難。 - 丼物の見た目は知財で保護できる?できない?
著作権、商標権、不正競争防止法などを活用して、保護することができる。
もし、わからない部分や疑問点などありましたら、
お気軽にぜひコメントまたはお問い合わせくださいね。
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