【スタッフ視点の知財ブログ(24)】
現在、東京はコロナ禍により、4回目の非常事態宣言中です。
やはり、今回も不要不急の外出は控えることが通知されています。
このため、インターネット上で予約や買い物をする機会が以前よりも増えています。
ということで、今回は、スタッフAさんに、
インターネット上で予約や買い物する際に気づいた便利なソフトウエア関連発明を報告してもらい、
そのソフトウエア関連発明のどういった点が特許権として認められたのかについて
解説していきます。
これを読むことで、
- 権利化のポイントを簡単に調べるには審査経過を確認すればよいこと、
- 権利化された発明のポイントは、権利化され特許請求の範囲の記載のうちの出願当初の特許請求の範囲の記載から追加・変更された部分であること、
- 特許権を積極的に活用する際には、その特許権に関連する複数の権利取得をすべきこと、
が理解できるようになります。
少しでも知財の力を活用していただければ幸いです。
お買い物の入力フォームへの自動入力は、最近、便利です!
スタッフAです。
度重なる非常事態宣言により、外出する機会が減りました。
このため、
このところオンラインで予約や買い物をすることが日常的になっています。
もう慣れてしまったかもしれませんが、
連絡先や配送先を指定する際にスマホやパソコンでアルファベットを一文字入力しただけで、
自分の住所、電話番号、メールアドレスが(オートコンプリート機能によって)自動入力されて
皆さんも最初は驚いたのではないでしょうか(私はびっくりしました)?
勿論、皆さんもご存じのように、
その仕掛けは、
一度入力した文章が、使用する皆さんのスマホやパソコンのブラウザに記憶されていて、
同じようなフォーム入力欄に入力を始めると、それが呼び出されて、
入力を受けた入力欄の補完候補をユーザーに提示する(自動補完する)仕組みなのですね。
ただ、
以前は、補完候補が間違えていて、例えば、数字のところがハイフンだったり、
結局余計に手間がかかっていたような気がするのですが、
最近はその手間が少なくなったような気がします。
そこで、こういったオートコンプリート機能による自動入力について、
特許情報プラットフォーム(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/p0100)にて、
特許権があるかどうかを調べてみました。
すると、クラウド型のWebマーケティング支援サービスを行っている株式会社ショーケースが、
その基本となる特許権(特許4460620号)を保有しているようです。
この特許権は、
株式会社ショーケースのHP(https://cdn.showcase-tv.com/wp-content/uploads/FA_topics20100317.pdf)によれば、
「Webマーケティングの一番重要なポイントである申込や購入画面の入力フォームにおいて、ユーザの入力を支援し、成約率を向上させる包括的なシステムであり、一般的にEFO(入力フォーム最適化)と呼ばれる改善施策のベースとなる 」もののようです。
以下に、この特許権の図7を示します。
この図は、この特許権を適用した際の、入力フォームの一例です。
この特許によれば、必須の入力フィールド701を色をつけて目立たせたり、
必須項目の未入力を避けるために、未入力の項目数をガイダンス702で表示することが、
可能となるようです。
なるほど、
何気なく使用していたので、このような発明は当たり前で、
特許権にはなりにくいと思っていました。
が、
ちゃんと権利化できるものなのですね。
ユーザーである私としては、便利であることに越したことはないので、
どんどん便利機能が増えて、より快適なオンライン環境が整ってほしいと思います。
権利化されたソフトウエア関連発明の発明のポイントの解説
権利化のポイントを簡単に調べるには?
スタッフA:上述したように、
特許4460620号は、当たり前の機能のように感じるので、
特許にはなりにくそうな気がしたのですが、
実際にどのような点が、権利化に結び付いたのでしょうか?
あっ、
勿論、この特許を読んで理解できたうえで言っているわけではないで、
できるだけ簡単に説明してくれるとありがたいのですが(冷汗)・・・
弁理士須藤:そうですね。
確かに、あまり特許性がなさそうにも見受けられるかもしれません。
が、
特許の権利範囲は、ご存じのように、特許請求の範囲で規定されます。
特に、今回は、審査官の審査により拒絶理由通知を2回受けて、
特許請求の範囲を補正し反論をして、権利化されています。
このため、
当初の特許請求の範囲の内容では特許権にはなりませんと言われていたのを、
補正したらOKとなったのですから、
乱暴に言ってしまえば、その修正された部分が権利化のポイントといえます。
スタッフA:なるほど!
では、補正された部分の文章とその意味が分かれば、権利化のポイントがわかるのですね。
・・・・
でも、どうすれば確認できるのでしょうか???
弁理士須藤:Aさんは、
特許情報プラットフォーム(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/p0100)で特許4460620号を検索したと思いますが、その際に下左図のような画面が出てきたと思います。
その画面で、「経過情報」のボタンを押すと、下右図に示す別ウインドウで特許4460620号の「経過情報」が出てきます。
「経過情報」は、上から下の順番でこの権利についての状況を示しています。
これを見るとわかるように、
拒絶理由通知が2回出ており、そのたびに反論(手続補正書と意見書の提出)がなされています。
ちなみに、青色の文字の部分を押すと、それぞれの内容を見ることができるので、
それぞれの拒絶理由通知の内容と、2回の反論内容(手続補正書と意見書)と、
を確認することができます。
⇒ |
特許4460620号の発明のポイントはどこ?
弁理士須藤:確か、前回もAさんとはソフトウェア関連発明について、対話をしました(ブログ:ソフトウェアに係る特許権を取得する際の注意点の解説)。
そこで、問題ですが、
ソフトウェア関連発明で、特許出願をする際に気をつけるべきことを
2つお伝えしました。
それは一体どのような要件だったでしょうか?
スタッフA:はい!
1つめ:発明が明確であること。
2つめ:発明に該当すること。
弁理士須藤:はい、その通りです!
この特許の場合も、発明が不明瞭であること、発明に該当しないこと、がそれぞれの拒絶理由通知で述べられています。
つまり、この特許権の「経過情報」を見ても、発明が明確であり、発明に該当することを満たすことは、ソフトウェア関連発明では、なかなか難しいということを意味しています。
スタッフA:それでですね。
聞きたいのは、やはり、この発明における発明のポイントは、
必須の入力フィールドに色をつけて目立たせたり、未入力の項目数をガイダンスで表示するといったことになるのでしょうか???
弁理士須藤:まず、当初の特許請求の範囲の請求項1と、最終的に権利化された請求項1と、
を以下に示すので見比べてください。
そして、分かることを上げてください。
なお、変更部分が分かりやすいように、変更された箇所をピンクで表しています。
また、新たに追加された用語を赤太字で表しています。
さらに、アンダーライン部分は、第1回の拒絶理由通知後に提出した文章から、
変更された部分を表しています。
また、斜体文字は、審査を請求した時点の文章から第1回の拒絶理由通知後に変更した部分を表しています。
出願当初の請求項1 | 権利化された請求項1 |
ネットワークを介して、クライアント端末に種々のサービスを提供するサーバシステム であって、 前記クライアント端末からの要求により所望の情報であって、該クライアント端末から クライアント関連情報を送信させるための対応情報を組み込まれた所望の情報を送信し、 該所望の情報に伴うクライアント情報を受信する情報提供サーバと、 前記所望の情報および該所望の情報に対応して入力されたクライアント関連情報を判断 する所定の条件を含む判断情報を予め格納する判断情報格納手段と、前記クライアント端 末における前記所望の情報の提供に応答して前記所望の情報に組み込まれた対応情報によ り該クライアント端末から送信された前記クライアント関連情報を受信するクライアント 関連情報受信手段とを含み、前記クライアント端末に、前記クライアント関連情報に基づ いて前記クライアント関連情報が前記所定の条件に応じて、前記クライアント端末に表示 された前記所望の情報の表示属性を変更させる制御サーバと を備えたことを特徴とするサーバシステム。 |
ネットワークを介して、種々のサービスを提供するサーバシステムであって、 クライアント情報を送信させるための入力フォームであって、クライアント関連情報を送信する送信先のサーバを特定するサーバ特定情報を組み込んだ入力フォームの表示データを送信し、該入力フォームに対応して入力されたクライアント情報を受信する情報提供サーバと、 前記情報提供サーバから送信された入力フォームをブラウザにより表示し、当該表示された入力フォームの項目に前記クライアント情報が入力されると、前記入力フォームに組み込まれたサーバ特定情報により特定される送信先に、当該入力されたクライアント情報の入力属性を含むクライアント関連情報を前記入力された入力フォームの項目を特定する項目識別情報とともに送信するクライアント端末と、 前記入力フォームの入力項目ごとに予め定められた、入力されるクライアント情報の入力属性が満たすべき所定の条件、および該入力フォームの各入力項目に対応して入力されたクライアント情報の入力属性が、該所定の条件を満たすか否かに応じて、前記クライアント端末に表示された入力フォームの対応する入力項目の表示を変更する変更内容を示す入力項目ごとに対応した判断情報群を予め格納する判断情報群格納手段と、前記クライアント端末から送信された前記クライアント関連情報を受信するクライアント関連情報受信手段とを含む制御サーバと を備え、前記制御サーバは、前記判断情報群と、前記受信したクライアント関連情報に含まれる入力属性とに基づいて前記入力されたクライアント情報が前記所定の条件を満たすか否かを判断し、当該判断の結果に応じて、前記クライアント端末に、前記情報提供サーバにより送信された入力フォームの前記項目識別情報により特定される入力フォームの項目の表示を変更させることを特徴とするサーバシステム。 |
スタッフA:うわー、ちょっと文章が長くて、意味はよく分かりません。
が、
やはり、権利化された請求項では、変更された部分が大変多いことはわかります。
また、赤字の部分も結構あり、沢山の新しい用語が追加されています。
弁理士須藤:そうです。
まず、そこが大切です。
具体的な用語として、
入力フォーム、サーバ、サーバ特定情報、表示データ、ブラウザ、項目識別情報、入力属性、入力項目が新たに追加されています。
そして、
それらの新たに追加した用語と当初から記載している用語との関係を補正で明確化したことで、
審査官から、最終的に発明が明確化され、発明に該当すると認められたわけです。
スタッフA:権利化された文章において、「入力フォームの項目の表示を変更させる」の部分は新たに追加されています。
このため、この発明における発明のポイントは、
必須の入力フィールドに色をつけて目立たせたり、未入力の項目数をガイダンスで表示するといったことであると理解してよいということですね。
弁理士須藤:そうとは言えないようです。
なぜなら、その部分の特徴だけでは権利化されなかったからです。
また、当初の請求項1でも、
制御サーバは「表示属性を変更させる」ことができることを記載しているからです。
なお、発明のポイントが「進歩性」であると定義するならば、
この発明は、第1回の拒絶理由通知で「進歩性」がないと認定されました。
しかし、これに対する反論を行うことで、第2回の拒絶理由通知の時点では、
審査官からは「進歩性」を有すると認定されています。
このときの反論としては、以下の点を補正で明確にしていることで、
出願人は「進歩性」を有していると主張しています。
本発明は、「情報提供サーバと制御サーバの少なくとも2つのサーバを備え、入力フォームの送信およびクライアント情報の受信と、入力のチェックまたはガイダンスの表示とを別のサーバに実行させる」構成を備えている。 |
つまり、「本発明は入力フォームを提供する企業サーバ等とは 異なる専用のサーバからガイダンスを実行させる」ことが特徴であり、
単に「入力フォームの項目の表示を変更させる」ことは発明のポイントではないということです。
スタッフA:なるほど、
ということは、
「入力フォームの項目の表示を変更させる」ことだけの特徴ならば、
この特許権を気にせずに、誰でも実行することができるということですね。
弁理士須藤:そうですね。
ついで言えば、
上記権利化された請求項1で使用されている用語が1つでも欠けた発明を実施するのであるなら、基本的には特許4460620号の権利の侵害とはならないということです。
特許権を積極的に行う際に実施すべきこととは?
スタッフA:上述した「経過情報」で気になったのですが、「ファイル記録事項記載書類の交付請求書」という項目が記載されています。
ちなみに、これは一体、どのような内容なのでしょうか?
弁理士須藤:「ファイル記録事項記載書類の交付請求書」は、
この特許権に関して手続きした書類一式のコピーを特定の住所に郵送してほしい
という請求書です。
つまり、
この特許権が第三者から注目されて、その第三者が詳細な内容を確認したいときに請求します。
ちなみに、「ファイル記録事項の閲覧(縦覧)請求書」は、
この特許権に関して手続きした書類一式を、オンラインで見ることを請求するものです。
現在では、「ファイル記録事項記載書類の交付請求書」と「ファイル記録事項の閲覧(縦覧)請求書」とは、内容的には同じものと考えてよいです。
(なお、注目をされている特許については、「情報提供」、「特許異議申し立て」、「無効審判」などの表示がなされている場合もあります。)
スタッフA:この特許権では、なぜこんなに、沢山の「ファイル記録事項記載書類の交付請求書(あるいは、ファイル記録事項の閲覧(縦覧)請求書)」が提出されているのです?
弁理士須藤:それは、この特許権が有益であり、株式会社ショーケースが、HPで内容を紹介しライセンス供与をすることを謳っているからだと思います。
そのため、興味を持った第三者がこの特許権の詳細を確認すべく、「ファイル記録事項記載書類の交付請求書」等が提出されたのだと思います。
ライセンス供与をするうえでは、特許権を積極的に公開していく必要があります。
ただ、特許権の素性を公開することで、注目度が上がりますが、その分、その特許権の欠点や回避策も見つけられてしまう可能性も高くなります。
このため、特にライセンス供与を考えている特許権については、権利者は少なくとも以下のような対応を取ることが望ましいと言えます。
- 分割出願制度を活用して、その特許権に関連する特許権を増やすこと。
- その特許権でカバーしていないが、その特許権に関連する複数の特許出願をすること。
- その特許権で実施するサービス名について、商標権を取得すること。
どんなにすごい完璧な特許でも、その発明を回避する手段は必ずあるものです。
ぜひ、その特許権を有効活用するのであれば、
その特許権に関連する複数の権利取得をしてもらいたいと思います。
まとめ
権利化されたソフトウエア関連発明の発明のポイントの解説の要点は以下のようになります。
-
- 権利化のポイントを簡単に調べるには審査経過を確認すればよいこと、
- 権利化された発明のポイントは、権利化され特許請求の範囲の記載のうちの出願当初の特許請求の範囲の記載から追加・変更された部分であること、
- 特許権を積極的に活用する際には、その特許権に関連する複数の権利取得をすべきこと、
もし、わからない部分や疑問点などありましたら、
お気軽にぜひコメントまたはお問い合わせくださいね。
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