【スタッフ視点の知財ブログ(27)】
5月になりました。
コロナ禍が落ち着き、緊急事態宣言や蔓延防止対策などの制限なく
GWが過ぎました。
が、再度、感染者がまた増えそうな気配があります。
そういったなかでは、まだ人に直接会うよりもやはりゲームなどを行うことが
休日の時間の過ごし方として主流なのかもしれません。
今回は、スタッフMさんに、
ゲームのキャラクターでお気に入りの「カービィ」に対する知的財産権による保護状況について報告してもらい、
ぬいぐるみ「カービィ」が実際になぜまねをされずにすんでいるのかについて解説をしていきます。
これを読むことで、
- 気になる商標商標に対して広く商標調査をするには、
「商標(検索用)」には何も入力せず、
「称呼(類似検索)」の項目に、調べたい商標をカタカナ入力する。
また、「検索オプション」を開き、「ステータス」で、「すべて」とし、
「出願却下を除く」のチェックを外す。 - キャラクターの「カービィ」には意匠権がない。
その理由としては、ゲームに登場した時点で新規性を失うので
最初から意匠出願をするつもりでないと、権利を取得するのが困難である
ことによる。 - 「カービィ」のぬいぐるみの権利は、
著作権と不正競争防止法とにより保護されている。
が理解できるようになり、
効果的な商標調査を行う手法が分かり、かつ
ゲームのキャラクター等に対する知的財産権の活用方法を理解する
ことが可能となります。
少しでも知財の力を活用していただければ幸いです。
私の心のオアシス「カービィ」!
スタッフMです。
私は「カービィ」がとっても好きです。
私の心のオアシスのピンクのまんまる・・・
「カービィ」は今年30周年を迎えたことを
ご存じですか(誕生日は4月27日)。
今後もたくさんの記念グッズや限定商品が
販売される予定で、ワクワクが止まりません。
8月11日にはミュージックフェスが開催されるので
先日、意気揚々と応募してみました!
が落選してしまい・・・
スタッフMは今失意のド真ん中です・・・
ともあれ、
この30年で実に多くの関連する娯楽商品が発売されてきましたので、
きっと登録商標も多いはずにちがいないと、特許情報プラットフォームで検索してみました。
すると、以下に示すたった13件しか登録されていませんでした。
文字だと、「星のカービィ」(登録第4992347号)、「カービィ」(登録第3252385号)、「カービィのエアライド」(登録第4733077号)、「星のカービィ トリプルデラックス」(登録第5645740号)などがあり、
ロゴだと、以下に示すようなものだけでした。
登録第4003424号 | 登録第5293301号 | 登録第5943112号 |
右に示したようなシールについては商標権がなく、
商標権がたくさんあるとテンション上がるな~
と期待していただけに、
思った以上に少ないので驚き、ちょっぴり切ない気持ちになりました。
モヤモヤしながら、私のかわいい「カービィ」のぬいぐるみを眺めていて、
あっ、意匠権をとっているはず!
と思い、早速、特許情報プラットフォームで、「ぬいぐるみ」で検索してみました。
378件(2022年5月10日現在)がヒットしましたが、「カービィ」はありませんでした。
・・・
驚きです(´・ω`・)
このような状態では、誰かにまねされて、質の悪い「カービィ」もどきの
変なぬいぐるみが出回るのではないか
と、ちょっとはらはらドキドキしてしまいました。
ぬいぐるみの「カービィ」は何で保護されているかについての解説
気になる商標に対して広く商標調査をするにはどうするの??
スタッフM:ちょっと不満です!
なぜ、
私の「カービィ」の商標権が13件と少ないのでしょうか??!
弁理士須藤:と、言われても。
・・・
じゃ、もう一度調べてみましょう(;^ω^)!
まず、特許情報プラットフォームで、
以下のように「商標検索」の画面にします。
次に、「商標(検索用)」には何も入力せず、
「称呼(類似検索)」の項目に、カタカナで「カービィ」と入れます。
そして、「出願人/権利者/名義人」の項目に、
「任天堂株式会社」と入れます。
そして、「検索オプション」を開き、
「ステータス」で、「全て」とし、
「出願却下を除く」のチェックを外します。
そして、「検索」をクリックする。
すると、検索結果として、「検索ヒット件数」として51件が得られます。
スタッフM:あれー?
私が検索したら13件だけだったのに、
なぜ、増えたのでしょうか?
弁理士須藤:ここでは、権利になっていないものが含まれています。
しかし、もっと大きな違いは、「称呼(類似検索)」としていることです。
「称呼(類似検索)」は、
クリックしないと「称呼(単純文字列検索)」のままとなります。
つまり、「称呼(単純文字列検索)」だと、
「カービィ」の読みだけが対象となり、
「カービー」と読める場合が排除されてしまうのです。
スタッフM:???
「カービィ」の読みは「カービィ」だけだと思うので、
問題ないように思いますが・・・
弁理士須藤:この読みは特許庁で勝手につけるので、
例えば、「カービィ」や「KIRBY」を
「カービー」とだけ読むとしてしまう場合があるのです(「カービィ」を「カービィ」と読まずに「カービー」とするのは大変まれだとは思いますが・・・)。
だから、別の読みがなされてしまうような可能性がある場合には、
「称呼(類似検索)」として、検索するほうがよいのです。
ただ、「称呼(類似検索)」としておくと、「カービィ」や「カービー」を調べたいのに、
今回は「カッペイ」、「キャッピー」、「EVR DERBY」
といったものまで引っかかってしまったので、注意が必要です。
スタッフM:・・・・
「カービィ」が「カービー」とだけ読まれる場合もある
というのは不思議な現象で納得しにくいですが・・・
うーん、とりあえず、そうゆうことなのですね。
・・・・
ちなみに、途中で、
「検索オプション」を開き、「ステータス」で、「全て」とし、
「出願却下を除く」のチェックを外していますが、これはなぜでしょうか?
弁理士須藤:上記のようなチェックを入れておくことで、
過去に商標権があったものや、権利にならなかったものまで
検索できることになります。
つまり、自分が調べようとした商標が
過去に出願されたか、過去に拒絶されたか等を確認できるので、
出願した際に権利化できるかどうかを判断する一つの目安とできるのです。
ついでに説明すると、「検索ヒット件数」で、
「出願年別」はいつの時期に何件出願されているのか、
「区分別」はどの区分で何件出願されているのか、
「出願種別」は「商標登録出願」で何件出願されているのか、
「商標のタイプ」は「標準文字商標(標準文字だけで構成された商標)」で何件出願されているのか、
を示しています。
なぜ、「カービィ」には意匠権がない??
スタッフM:あのー、
「カービィ」には、調べたら意匠権がなかったのですが、
なぜでしょうか?
ぬいぐるみでは、意匠権を取るのが難しいのでしょうか?
弁理士須藤:基本的に世の中にまだ出ていない新しい形状であれば、
意匠権が取れないわけではありません。
実際に、Mさんが調べたように、
「ぬいぐるみ」で378件の意匠登録がなされているのですから。
スタッフM:やはり、「カービィ」誕生当時(1992年)は、
意匠権の存続期間が最長で15年と現在(出願から25年)よりも
10年も短かったからでしょうか?
つまり、1992年当時に、意匠権をとれても権利が最大で15年しかないので、
出願する意味、価値なしと判断されたのでしょうか?
いまだと、
「カービィ」のあのピンクのまんまるに可愛らしい短い手足を付けるのは、
ゆるキャラなどでなんとなく当たり前すぎる形状なのかもしれませんが、
もし1992年当時に意匠出願していれば、
意匠登録のための要件をクリアして意匠権をとることができたのでしょうか?
弁理士須藤:まず、
現在、意匠登録されているぬいぐるみをみても、
簡単な形状のものもあるので、
1992年当時に意匠出願していれば
登録されていた可能性は相応にあったと思います。
次に、なぜ、意匠登録されなかったかですが、
確かに、Mさんの言うように意匠権の権利期間が短かったから
といった理由もあったかもしれませんね・・・
では、私個人の推定をお伝えしますね。
「カービィ」は、当初ゲーム内のキャラクターだったわけです。
そのあと、相当に時間が経ってから、
ぬいぐるみとして販売開始がなされたという経緯があります。
ちなみに、
「カービィ」のぬいぐるみは、すべてのメーカは知りませんが、
三英貿易株式会社と株式会社タカラトミーアーツとが
企画・製造・販売しています。
ここで、三英貿易株式会社のHP(https://www.san-ei-boeki.co.jp/company/collection/)の記事によると、
2006年5月に三英貿易株式会社では
初めて「星のカービィ」のぬいぐるみを商品化した、とあります。
つまり、
「カービィ」はゲーム上で1992年に誕生してからぬいぐるみの商品化まで、
14年かかった可能性があるのです。
このため、
ゲーム上で「カービィ」が人気となり、
意匠権で権利保護しようかと検討したが、
「カービィ」の形状がその時点あまりにも知られていたので、
意匠出願しても意匠権は取れないので意匠権を断念した、
という感じだったのではないかなと思います。
スタッフM:なるほど。
基本的には、
意匠権でゲームのキャラクターを保護しようとするなら、
ゲームに登場させた最初から意匠出願をする意図がないと難しい、
ということですね。
なんとなく、納得です。
「カービィ」のぬいぐるみの権利はどうやって守られているの?
スタッフM:となると、
「カービィ」のぬいぐるみは、
どのような法律で守られている
のでしょうか?
やはり、著作権で保護されている
と考えてよいのでしょうか?
弁理士須藤:「カービィ」のゲームや漫画がもともとあるので、
著作権で保護されていると考えてよいと思います。
実際に、
「カービィ」のぬいぐるみを販売している三英貿易株式会社と株式会社タカラトミーアーツとは、
任天堂株式会社と株式会社ハル研究所が著作権を有していることを、HPでそれぞれ謳っています(https://www.takaratomy-arts.co.jp/items/plush/、https://www.san-ei-boeki.co.jp/character/kbp/)。
ちなみに、「カービィ」は、有名ですから、模造品が出回れば、不正競争防止法という法律(有名な「カービィ」の事業に乗っかって不当な利益を上げようとする行為を防止する法律)により、差し止め(販売することを停止させること)と損害賠償(模造品の販売で損害出た部分を賠償させること)の請求をすることも可能となります。
つまり、「カービィ」のぬいぐるみは、不正競争防止法でも保護されている
と言えます。
参考として、2020年に確定したいわゆるマリオカート事件(https://www.inpit.go.jp/content/100871117.pdf)があります。
この事件では、
任天堂株式会社とは無関係な別の会社が、
マリオカートに出てくるキャラクターのマスコットを店頭に配置し、
コスチュームを貸与して、公道でカートを走らせるサービスが
不正競争防止法違反とされました。
スタッフM:なるほど。大変、勉強になりました。
ありがとうございました。私もこれで安心です(笑)。
やはり、模造品の販売や、悪質な利用などは、私のようなファンにはつらく許せないです。
そんな問題が起こることのないよう、私は正規品の「カービィ」をもっと購入してあげたいと思います。
弁理士須藤:あらら、
そうきましたか・・・・
まとめ
ぬいぐるみの「カービィ」は何で保護されているか
についての解説内容は以下のようになります。
-
- 気になる商標商標に対して広く商標調査をするには、
「商標(検索用)」には何も入力せず、
「称呼(類似検索)」の項目に、調べたい商標をカタカナ入力する。
また、「検索オプション」を開き、「ステータス」で、「すべて」とし、
「出願却下を除く」のチェックを外す。 - キャラクターの「カービィ」には意匠権がない。
その理由としては、ゲームに登場した時点で新規性を失うので
最初から意匠出願をするつもりでないと、権利を取得するのが困難である
ことによる。 - 「カービィ」のぬいぐるみの権利は、
著作権と不正競争防止法とにより保護されている。
- 気になる商標商標に対して広く商標調査をするには、
もし、わからない部分や疑問点などありましたら、お気軽にぜひコメントまたはお問い合わせください。
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