【スタッフ視点の知財ブログ(16)】
7月に入り、新型コロナウィルス、オリンピック以外に別のことが話題となっています。
そう、
この7/1から「プラスチック製買物袋の有料化制度」が始まったことが
ニュースにも報道されています。
実際に、
買い物の際に、コンビニ、スーパーなどで必ず買物袋の有無を聞かれるようになりました。
このため、私も、買い物を行う際には、必ずエコバッグを持ち歩くようにしています。
ということで、今回は、
スタッフAさんに、
お気に入りのエコバッグ「シュパット」の商標権と意匠権についての調査内容を
報告してもらい、
それに基づいて、
エコバッグ「シュパット」に見る知的財産権の活用例を解説していきます。
これを読むことで、
- 商標権としての「シュパット」の特徴は、
①シンプルで短いこと、
②商品とネーミングとの間にはギャップがあること、
③ネーミングがカタカナであり、商品の音と特徴を端的に示していること、
により、覚えやすいこと。 - 意匠権としての「シュパット」の特徴は、必須となる部分の形状である
①両端を引っ張った際に帯状となること、
②エコバッグ状態にした際には、帯状の形態の部分には折り目がつくので、ジャバラのデザインが生じること、
であること。
これ以外の部分のバリエーションの存在を考慮し、部分意匠制度を活用していること。 - 「シュパット」のように特徴ある日用雑貨であれば、特許権が取得できること。
その際には、意匠権とは異なり、図面で開示した以上の広い権利が確保できること。
が理解できるようになります。
そして、例えば、
良いネーミングの商標を付けるコツ、
バリエーションのあるデザインを意匠で保護するコツ、
そして、特許の内容を迅速に調査するコツ
も併せて知ることが可能となります。
少しでも知財の力を活用していただければ幸いです。
お気に入りのエコバッグは??
スタッフAです。
私も、「プラスチック製買物袋の有料化制度」が始まったことに伴い、
エコバックを持ち歩くことを意識しています。
エコバッグは、ダイソー、カルディ、キャンドゥなど、現在いろいろなところから提供されていて、
こだわらなければどこでも入手が可能です。
でも、私は、絶えず持ち運ぶつもりなので、
かさばらずに、使い勝手がよく、かわいいものを使いたいと思っています!
その点からいくと、株式会社マーナが販売している「シュパット」が一押しです!
知っている方は多いと思いますが、
「シュパット」を、エコバッグの状態で両端を引っ張ると、一気に帯状になるので一瞬で畳めるのです!
画期的ですごい!
と思いませんか?
また、「シュパット」というネーミングも、
すぐに取り出せて、すぐに使えるようなイメージを見事に表していて、
とても良いネーミングだと思います!
ちなみに、再生ポリエステルを使用しており、環境にも優しいと思います。
また、いろいろなサイズがあり、用途に応じて使い分けができますよ!
ということで、株式会社マーナが販売している「シュパット」に関連する意匠権と商標権を特許情報プラットフォーム(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)で調査してみました!
すると、株式会社マーナは、
「シュパット」に関する商標権を3件(商標登録第5868840号、商標登録第5914903号、商標登録第6064077号)と、
意匠権を6件(意匠登録第1552416号、意匠登録第1556778号、意匠登録第1556779号、意匠登録第1556780号、意匠登録第1583118号、意匠登録第1583355号、意匠登録第1600967号、意匠登録第1606954号、 意匠登録第1631589号)と、
を有していました(2020年7月25日現在)。
なお、下図は、意匠登録第1552416号における使用状態を示す参考図1(買物商品等を入れる際に帯状の短方向に開け広げる)と、使用状態を示す参考図2(使用後は長方向に引っ張って閉じ、収納状態を示す)です。
これを見ただけでも、便利!!
と思えるのではないでしょうか!
参考図1 | |
参考図2 |
ぜひ、この機会に、お気に入りのエコバッグを探してみてはいかがでしょうか?
エコバッグ「シュパット」に見る知的財産権の活用例の解説
商標権としての「シュパット」の特徴とはどんなところ?
スタッフA:「シュパット」のネーミングは、一度この商品を使うと、もう忘れない感じがします。
これは、なぜでしょうかね・・・
弁理士須藤:「シュパット」は、人に覚えてもらいやすく、確かにいいネーミングだと思います。
その理由となる特徴は、私的な観点から、以下の3つを挙げてみます。
- シンプルで短いこと。
- 商品とネーミングとの間にはギャップがあること。
- ネーミングがカタカナであり、商品の音と特徴を端的に示していること。
スタッフA:1つ目の「シンプルで短いこと」と、
3つ目の「ネーミングがカタカナであり、商品の音と特徴を端的示していること」は、
良いネーミングの要件に必要そうだなと、
何となくわかります。
しかし、2つ目の「商品とネーミングとの間にはギャップがあること」とは、どうゆう意味でしょうか?
弁理士須藤:表現の仕方が難しいのですが、
商品とネーミングとの間にギャップがあると、
聞いた人は一瞬???となります
(この状態は人の心が動いた状態なので、ある意味で、人が感動した状態といえます)。
すると、その???を感じた人は、普通、その理由を解決しようと考えるのです。
結果的に、そのネーミングについて、心が動き、かつ長く考えることになるので、覚えてもらいやすい
ということになるのです。
なお、「シュパット」はネーミングがシンプルであり覚えやすいですね。
そして、「シュパット」は、書くと5文字ですが、
音としては3音と見なせるので、音を聞いた際には短いと感じ、
より覚えやすいと言えると思います。
更には、先ほどの???のある状態で、人が「シュパット」を使用した際に、
開閉の際に生じる「シユパッ」という音を聞き、
音や動作を表すのが一般にカタカナであることから、「シュパット」のカタカナ表記を納得し、更には
使用後の折り畳みの手間が驚くほど少ないことを実体験します。
このような体験で、「シュパット」のネーミングに腹落ちして、
更に記憶に残りやすくなると言えると思います。
意匠権としての「シュパット」の特徴はどんなところ?
スタッフA:じゃ、意匠権としての「シュパット」の特徴は、どんなところになるのでしょうか?
弁理士須藤:意匠権の観点とは限りませんが、
「シュパット」の一番の特徴は、
使用後に手間をかけずにすぐにかさばらない状態にでき収納できる点ですね。
エコバッグに限らず、薄い合成繊維でできた袋は、大体のものはすぐに使用できる状態とすることができます。
しかし、いざ、使用した後で、見た目もよく、かさばらない形態に戻すことには工夫が必要であり、
その特徴を株式会社マーナでは意匠権で保護しています。
ただし、意匠権は、物品の美的外観を保護する権利なので、6面図(上下左右前後の図面)で定義されます。
このため、意匠権では、この6面図で定義されない外観は、保護の対象外となります。
スタッフA:ということは、極論は、意匠権は、6面図で限定されることで、
基本的には1つの意匠出願でそんなに広い権利を取ることは難しいということですね。
それなら、この「シュパット」は商品バリエーションが多いので、
多くの意匠権を取得する必要があるということでしょうか?
弁理士須藤:基本的には、そうなります。
ただし、バリエーションが多数でも、保護したい必須の形状は共通していることが多いのです。
そのため、その保護したい必須の形状以外は、多少の変更があっても保護可能とする
部分意匠制度
を使うことができます。
そのため、例えば、「シュパット」の場合、必須となる部分の形状は、
両端を引っ張った際に帯状となること、
エコバッグ状態にした際には、帯状の形態の部分には折り目がつくので、ジャバラのデザインが生じること、
であり、この部分を保護対象として実線で描き、それ以外の部分を破線で示すようにしています。
株式会社マーナは、「シュパット」に関連する意匠権として6件有していますが、
この部分意匠制度をうまく活用して、
「シュパット」の商品バリエーションを効果的に保護していると思います
(以下の図では、意匠登録第1583118号の物品「リュックサック」の図面)。
【平面斜視図】 | 【リュックサックに展開した状態を示す正面図】 |
「シュパット」は特許では権利化しにくい?
スタッフA:「シュパット」について、特許・実用新案をちょっとだけ調査しましたが、該当するものが見当たらなかったように思いました。
やはり、エコバックのような日常品などは、
実用新案で権利化されるしか方法がないのでしょうか?
弁理士須藤:確かに、
実用新案は、実質的に審査がなされないで登録される(無審査登録制度)ので、
エコバッグなどを含めた日用雑貨は、多くが実用新案で出願されているようです。
しかし、「シュパット」には、上述したように、
使用後に手間をかけずに、すぐにかさばらない状態にでき収納できる特徴があります。
このため、株式会社マーナでは、以下に示す特許権などを有しています。
特許第6587726号 | 特許第6468542号 | WO2017/033902 |
折りたたみ縦型かばん | 折り畳みかばん | 折り畳み可能な包囲体 |
なお、特許権や実用新案権は、意匠権とは異なり、保護の対象が「技術思想」なので、
必ずしもすべてが正確に図面に示される必要はありません。
つまり、特許権や実用新案権は、意匠権よりも広い権利とすることができます。
スタッフA:あれ??
私が探した際には、特許には、「シュパット」のようなものが見当たりませんでしたが・・・
弁理士須藤:特許の場合には、出願書類の枚数が多いので、
全てを見て確実に内容を把握することは難しいかもしれません。
ただ、権利として重要な部分は、図面に記載できるならば図面に記載することが多いのです。
このため、ここが重要!
という部分が図面に示せるのであれば、
文章を見ずに図面だけを見て、特許の概略の内容を判断することが有効な場合もあります。
スタッフA:このように見てみると、株式会社マーナは、うまく特許、意匠、商標を取得して活用しているように感じます。
これは、なぜでしょうか?
弁理士須藤:簡単に言うと、今まで多くの出願をして、かつそれを生かそうとしているからです。
たとえば、株式会社マーナは、今まで
121件の特許・実用新案、408件の意匠出願、そして、240件の商標出願
をしています(出願人名で検索)。
株式会社マーナの製品は日用雑貨なので、この件数は比較的に多いかもしれません。
スタッフA:ということは、逆に言えば、
出願の数が少ない企業は思ったような権利を取れない可能性が高いということでしょうか??
弁理士須藤:そうならないようにするのが私たちの役目だと思っています。
つまり、少ない出願でも効果的な権利が取れるように、
私達は支援していくことが必要だと思っています。
スタッフA:私もそういったことを意識して、頑張ります!
まとめ
エコバッグ「シュパット」に見る知的財産権の活用例の解説の要点は以下のようになります。
- 商標権としての「シュパット」の特徴は、
①シンプルで短いこと、
②商品とネーミングとの間にはギャップがあること、
③ネーミングがカタカナであり、商品の音と特徴を端的に示していること、
により、覚えやすいこと。 - 意匠権としての「シュパット」の特徴は、必須となる部分の形状である
①両端を引っ張った際に帯状となること、
②エコバッグ状態にした際には、帯状の形態の部分には折り目がつくので、ジャバラのデザインが生じること、
であること。
これ以外の部分のバリエーションの存在を考慮し、部分意匠制度を活用していること。 - 「シュパット」のように特徴ある日用雑貨であれば、特許権が取得できること。
その際には、意匠権とは異なり、図面で開示した以上の広い権利が確保できること。
もし、わからない部分や疑問点などありましたら、
お気軽にぜひコメントまたはお問い合わせくださいね。
なお、アイキャッチ画像は、 windy163さんによる写真ACからの写真提供です。
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