【スタッフ視点の知財ブログ(23)】
2月を過ぎ、3月になりました。
依然、コロナ禍のため、家でのおうち時間をどう過ごすのかが、まだ大切な時期です。
そこで、今回は、スタッフMさんに、
おうち時間を快適に過ごすのに購入したゲーム機などで使用される音の商標(音商標)について報告してもらい、
「音商標」が登録されるための要件について解説をしていきます。
これを読むことで、
- 音商標は、2015年から出願可能となったこと。
同時期に、動き商標、ホログラム商標、色彩のみからなる商標、位置商標なども出願可能になったこと。
音商標は2015年の出願が一番多く、それ以降出願が減っていること。
このため、この時期に、音商標の商標権を取得することで、競合との差別化の可能性があること。 - 音商標は音が短いと登録されにくいこと。
その理由としては、音が短いと特徴が出せず、通常発する音と見なされ自他識別力がないと判断された可能性があること。 - メロディないし効果音のみ音商標の登録は相当ハードルが高いこと。
理由としては、声に出して呼んだり、話したりすることが困難である、意味がつかみにくい可能性があること。
が理解できるようになり、
効果的な音商標を出願し、活用に繋げることが可能となります。
少しでも知財の力を活用していただければ幸いです。
おうち時間はゲームで!でも、気になるゲームソフトの音の権利
スタッフMです。
外出もできず、室内で持て余している時間、ひとりでできる何か楽しいことはないかな・・・
なんて考えてしまい、
スタッフTさんと話をしたところ、「あつまれ どうぶつの森」(商標登録第6260534号)の内容で盛り上がり、
~室内での楽しみはやっぱりゲームかな~、
となりました!
と、いうことで、
その日中に、早速、携帯型の「SWITCH」(商標登録第6051655号)の
ゲーム機をゲットしました!!
ゲーム機を手に取ると、幼い頃の懐かしい記憶が蘇り、
大人になっても変わらないワクワクドキドキを感じ、
おうち時間が意外に楽しみになりました。
さて、私からすると、ゲームといえば、「DRAGON QUEST」(商標登録第4925996号)です。
すぎやまこういちさんが手がける音楽も、とてもすばらしく、CDを買ってしまうほどです。
ゲーム中に流れるメロディも印象深く、
例えば、レベルアップした時、仲間になった時、宿屋に泊まって目覚めた時、などで流れるメロディには特徴があり、
ふと、こういった音は商標登録されないのかな、と気になってしまいました。
そこで、インターネットで「ゲーム 音商標」で検索してみたら、
こんな記事-
『任天堂がマリオコインの音商標権取得を断念』
(https://news.yahoo.co.jp/byline/kuriharakiyoshi/20180820-00093779)が見つかりました。
この記事によれば、
『マリオがコインを取る時の「チャリーン」という効果音の商標登録出願(商願2016-014590)が、今年(2018年)の5月15日に出願人の意思により取り下げになっていました』
とのことで、
『審査官は「2秒程度の短い音であることからすると、単にゲーム内の効果音として認識されるというべき」と述べ、使用による識別力についても「(CMでの使用は)単に映像の開始又は終了を需要者に注意喚起したりする音、または単なる映像の効果音として認識されやすいというべきです」と厳しい判断』
を下したとのことです。
確かに、特許情報プラットフォームで調べると、
この商標登録出願(商願2016-014590)(右図で規定される音)は、拒絶理由が出願人に通知され応答したものの、
結局は出願取下をし、登録されていないことが確認できました。
しかし、例えばイオン株式会社の「ワオン」という音商標(右図で規定される音)は、
同じような2秒程度の短い音でも登録となっています(登録第5984020号)。
同じような2秒程度の短い音でありながら、登録されるものと登録されないものの違いは
どこにあるのでしょうか?
また、先ほどの記事によれば、
『メロディないし効果音のみ音商標の登録は相当ハードルが高い』とのことですが、それは一体なぜでしょうか?
と、まあ、疑問は尽きません。
ちなみに、特許情報プラットフォームで調べると、
今まで出願された音商標は696件です(2020年3月3日現在)。
2015年には1年で300件以上出願されたようですが、2020年は21件のみでした。
一時期よりも音商標を出願するという熱は冷めているのかもしれませんが、
逆に今、clubhouseなどの音声配信SNSもあり、音商標を権利化すると、目立って競合他社と差別化ができる、
とも言えます。
なお、
今回、音商標を特許情報プラットフォームで調べて気づいたのですが、
出願された音商標の音を、検索したホームページ上で実際に聞くことができます!
商標調査を調査する機会があれば、ぜひ、出願された音商標の音の聞き比べをして楽しんでみてくださいね。
ちなみに、調べてみて、目を引いた音商標が2つありました!
1つは以前映画を題材としたブログで男前豆腐店の「君の瞳に乾杯豆腐」(登録第5678088号)を取り上げましたが、
その男前豆腐店の音商標第5915677号を発見しました。
もう、男前ボイス炸裂で頭の中から離れません!
是非、聞いてみてください。
もう1つはメロディも声のは至って普通????ですが、登録5823870号で特許商標事務所の音商標です。
ゲームなどで使用される音が商標登録されるための要件の解説
音商標は、いつから権利が取れるようになったの??
弁理士須藤:うーん・・・
私は、自分の趣味がテニスだから、実際のテニスコートにいって試合(ゲーム)をしてしまいます・・・。
・・・
それはさておき、今回は、ゲームなどで使用される音が商標登録されるための要件を解説していきます。
まず、
Mさんもご存じのように、音商標は、比較的最近になり、登録可能となりました。
具体的には、2014年の商標に関する法律(商標法)が改正され、
音商標は、動き商標、ホログラム商標、色彩のみからなる商標、位置商標とともに、2015年から出願が可能になったからです。
(以下の表は、新しいタイプの商標の保護制度(https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/newtype/index.html)からの抜粋)
動き商標 | 文字や図形等が時間の経過に伴って変化する商標 (例えば、テレビやコンピューター画面等に映し出される変化する文字や図形など) |
ホログラム商標 | 文字や図形等がホログラフィーその他の方法により変化する商標 (見る角度によって変化して見える文字や図形など) |
色彩のみからなる商標 | 単色又は複数の色彩の組合せのみからなる商標(これまでの図形等と色彩が結合したものではない商標)(例えば、商品の包装紙や広告用の看板に使用される色彩など) |
音商標 | 音楽、音声、自然音等からなる商標であり、聴覚で認識される商標 (例えば、CMなどに使われるサウンドロゴやパソコンの起動音など) |
位置商標 | 文字や図形等の標章を商品等に付す位置が特定される商標 |
スタッフM:音商標だけでなく、ほかにもいろいろな商標が登録可能となったのですね。
いずれも、なじみもなければ知識もないのですが、いずれの商標も一度はチャレンジしてみたいです!
でも、今回は、音商標だけを取り上げるのですよね。
弁理士須藤:勿論、そうです。
他の商標は別の機会に解説したいと思います。
やはり、音が短いと登録されにくい??
スタッフM:音商標が権利化されるには、従来の商標出願と、どういったことが違うのでしょか???
まず、出願の際の書類の記載内容は変わるのですよね?
弁理士須藤:そうですね。
書類上では以下の4つの点が異なります。
- 商標は、音を通常五線譜で規定して記載すること。
- 【音商標】と記載すること。
- 必要があれば、【商標の詳細な説明】を記載すること。
- 音を記録したメディアを書類に添付すること。
新しいタイプの商標の出願方法~ 出願の際の注意事項及び様式~より
スタッフM:なるほど。
では、審査上の違いはなんでしょうか?
弁理士須藤:そうですね。
基本的に、
商標は他人の商品やサービスとの違いがわかるようにする能力(自他商品識別力といいます)
を持つ必要があります。
音商標もこの観点は同じですので、
商品が通常発する音、単音、自然音を認識させる音、楽曲としてのみ認識される音等の要素からなる「音商標」については、
原則として自他商品識別力がないので登録できないことになります。
だから、Mさんが紹介した商標登録出願(商願2016-014590)は、2秒以内と短く、
それだけでは商品・サービス(この場合には、ゲームソフト)が通常発する音等としてしか認識できず、
拒絶されたと考えらます。
スタッフM:なるほど・・・
それに対して、イオン株式会社の音商標「ワオン」は、特許庁の「音も商標になるよ」に記載されているように、
『WAONのキャラクターにもなっている犬の鳴き声をイメージさせる名前』で『和音』が由来であり、
『「WAON(ワオン)」はスーパーやコンビニエンスストアなどのお店で使える「電子マネー」というデジタルのお金』
だからでしょうか?
弁理士須藤:そうですね。
つまり、
イオン株式会社の音商標「ワオン」は、2秒以内であっても、
単なる犬の鳴き声ではなく、和音を由来とした商標であって、
「ワオン」という音からはイメージしにくい、電子マネーによる決済を、商品・サービスとしています。
これによって、楽曲としてのみ認識される音等の要素だけで構成されているわけではないと、
審査官から判断されことで、商標登録されたと考えられます。
こういった観点でいうならば、確かに短い音では、そもそも特徴が出しにくいので、登録がされにくいと言えます。
逆に言えば、短い音でも、特徴が出せ、その音からイメージしにくい商品・サービスにできれば、
登録される可能性はあると言えますね。
スタッフM:なるほど。
ざっくりいってしまうと、
この場合の「チャリーン」という短い音をゲームソフトという商品・サービスに使用することは当たり前だから、
登録できないという感じでしょうかね。
・・・
すると、例えばですが、マリオのゴールした時の音や死んでしまった時の音も、商品・サービスがゲームソフトならば、
特徴がなければ登録は難しいと考えられるということでしょうかね・・・
弁理士須藤:まあ、その可能性が高いといえます。
ただ、Mさんのいっている音が、相応に長くて、特徴があれば、登録される可能性がないとはいえませんね。
なお、著作権の観点からすると、
いずれの音も著作物として認められる可能性があります。
このため、商標権があるかどうかにかかわらず、
他人がそのまま使用するのは危険であることは注意すべきですね。
なぜ、メロディないし効果音のみ音商標の登録は相当ハードルが高い??
スタッフM:となると、
メロディないし効果音のみ音商標の登録は相当ハードルが高いということが、
なんとなくわかったような気がします。
やはり、長い音でも、メロディだけの音では、特徴が出しにくいからでしょうか?
弁理士須藤:そうですね。
ここで、わかりやすくするために、逆のことを考えてみましょう。
つまり、言葉が入っている状態の音商標を考えます。
すると、以下の2つのことが言えます。
- 言葉が入っているので、人がその音商標を間違えずに声に出して読んで話すことができ、覚え易くなります。
- 言葉が入っているので、その言葉の意味がわかり、見ただけでも覚え易くなります。
つまり、言葉が入っているので、その音商標を覚えてもらいやすい、つまり、他の音商標との区別が容易にできると言えます。
これに比べると、言葉がない音商標は、互いに区別がつきにくいことは、明らかといえます。
このため、メロディないし効果音のみ音商標の登録は相当ハードルが高いといえるのです。
スタッフM:なるほど。
大変、勉強になりました。
ありがとうございました。
今後は、今回の知見を生かして、将来の出願支援のために、
他にどんな音商標があるのか見つけて、出願の仕方など調べてみたいと思います。
私も、以前に『氷結』を題材にした立体商標のブログでお伝えしましたが、
やはりこの仕事に携わっている以上、新しい出願を手がけていきたいと思っています。
そこでですが、手始めに、うちの事務所でも音商標を作ってホームページで流すとかどうでしょう???
前述した男前豆腐店のようなインパクトの強い音商標、出願してみませんか?!・・・
弁理士須藤:ははは・・・
まずは、ボイストレーニングから始めます(^。^;)
まとめ
音商標の権利化のために必要な要件に対する解説内容は以下のようになります。
-
- 音商標は、2015年から出願可能となったこと。
同時期に、動き商標、ホログラム商標、色彩のみからなる商標、位置商標なども出願可能になったこと。
音商標は2015年の出願が一番多く、それ以降出願が減っていること。
このため、この時期に、音商標の商標権を取得することで、競合との差別化の可能性があること。 - 音商標は音が短いと登録されにくいこと。
その理由としては、音が短いと特徴が出せず、通常発する音と見なされ自他識別力がないと判断された可能性があること。 - メロディないし効果音のみ音商標の登録は相当ハードルが高いこと。
理由としては、声に出して呼んだり、話したりすることが困難である、意味がつかみにくい可能性があること。
- 音商標は、2015年から出願可能となったこと。
もし、わからない部分や疑問点などありましたら、お気軽にぜひコメントまたはお問い合わせください。
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