【スタッフ視点の知財ブログ(12)】
この冬の時期、私も例年お世話になっているのがマスクです。
幼少時に喘息を患ったせいか、
気管支が弱く、すぐに風邪を引くし、風邪気味になるとひどく咳込むので、
周囲に迷惑をかけないように、冬場には私はマスクをするようにしています。
ただ、今年のこの冬は、新型肺炎の騒動の最中であり、
マスクがなかなか手に入らない状態でちょっと困っています。
ところで、
昔は冬場にマスクをかけている人はもっと少なかったような気がしませんか?
ということで、今回は、
マスクのように、
昔からある日常品をもっと普及させる際に
キーとなる技術を如何に特許で保護するかを知りたい方向けに、
スタッフAさんに、お気に入りのマスクを報告してもらい、
それに基づいて、
普及のキーとなる特徴と特許との関係について説明していきます。
これを読むことで、
- マスク普及につながった特徴として、高機能化、低コスト化、がなされたこと。
- トイレットペーパーは、マスクの不織布とは材料が全く異なり、生産地と材料は中国にほとんど無関係であること。
- マスクが沢山売れるきっかけが、花粉症対策と2002年のSARSであったこと。
- 要約書の【課題】を見ることで、多くの発明の目的・課題を容易に理解でき、
それらを集計してパテントマップを作製できること。
が理解できるようになります。
これにより、例えば、
自社で日常品を扱っていれば、日常品であっても商品の特徴を意識した特許権の取得、そして知財戦略の作成が可能となります。
少しでも知財の力を活用していただければ幸いです。
お気に入りのマスクは??
スタッフAです。
この冬の季節、マスクが手放せない方が大多数と思いますが、私もそうです。
ただ、今年は新型肺炎(コロナウィルス)の影響で、
品薄で皆さんと同様に手に入れることが困惑な状況です。
ちなみに、私は、ユニ・チャーム株式会社の超立体マスクがお気に入りです。
理由は、
鼻筋から頬にかけて丁度フィットして、耳も痛くならず、
口の部分に空間ができ、唇がマスクの内側にも当たらないからです。
ということで、
今回は特許情報プラットフォーム(J-plat-pat)で
ユニ・チャーム株式会社のマスクを検索してみました!
出願人がユニ・チャーム株式会社で
「マスク」で検索すると、
特許・実用新案67件、意匠40件、商標7件が
存在して、
「使い捨てマスク」で検索すると、
特許・実用新案で25件ありました
(2020年2月28日時点)。
この結果によると、ユニ・チャーム株式会社も、
1992年に最初は実用新案での出願から始まり、
超快適型や超立体型のマスクの特許出願に至っているようですね。
ちなみに、出願の中には、
耳掛けがなく、
顔に粘着剤でマスクを貼り付けて使用する
ものもありましたよ(特開平11-128378、右図)。
それぞれの特許公報には、マスクについての特徴となる技術が記載されているようです。
マスクは簡単な構成で発明すべき点はあまり見当たらないように感じますが、
このように特許・実用新案だけで67件もの出願があります。
きっと、たくさんの発明が積み重ねられたことで、
今のつけ心地の良いマスクが生まれているのだと感じました!
マスクが手に入りにくいという事情もありますので、
この冬はもっと愛着を持って大切に使用したいと思いました。
マスクの普及のキーとなる特徴と特許との関係の解説
マスク普及につながった特徴とは?
弁理士須藤:なるほどね。
Aさんは、ユニ・チャーム株式会社の超立体マスクがお気に入りなんだね。
ちなみに、ユニ・チャーム株式会社は、「超立体」と「超立体マスク」とは、いずれでも商標権を取得している。
というのはさておき、
今回は特許という観点から、商品の特徴に注目てみよう。
商品には、主に3つの要素が必要だね。
それが何かわかるかな?
ヒントは、QCDだけど・・・
スタッフA:うーん、・・・
まず、Q(quality)は品質、つまり高機能化ですね。
この部分は、私が先に言っていたように、
耳が痛くならないとか、
鼻筋にフィットするとか、
口の周りに空間を設けることができるとか、の部分ですね。
次は、C(cost)、これは価格ですね。
安くなったということですか???
D(delivery)は配送?ですかね?
あまりピンときませんが・・・・
弁理士須藤:すばらしい。
そうだね。
今使っているマスクが広く普及したのは、
マスクという商品のQCDが今の我々消費者のニーズにうまくマッチしたから、ということだね。
まず、高機能化について説明しよう。
最初に普及していたのは、木綿で作られていたガーゼマスクだったんだよね。
ガーゼマスクは、水分を吸収しやすいので、保湿・保温効果が高く、
洗って再利用することが可能だったんだ。
(実際のところ、私の経験では洗うと形が崩れてしまい、
あまり使いたくなかったけど・・・)。
しかし、ガーゼマスクのガーゼは織物で目が粗いので、
一般にフィルター効果が低かったんだよ。
それに対して、今主流のマスクは不織布を用いたもの。
原料は石油由来のポリプロピレンやポリエチレンで、
吸湿性が低いので保温性が低いといわれている。
しかし、フィルター効果を高くすることが容易とされている。
しかも、不織布なので、ガーゼマスクのように織ったり縫ったりする必要がない
だから、コストを安くすることができたんだ。
スタッフA:つまり、今の主流のマスクは、
不織布を用いたことで、
高いフィルター機能(高機能化)を備えながら、かつ低コスト化を実現できたということですね。
なるほど・・・・
弁理士須藤:ちなみに、不織布を用いたマスクの発明は、
1970年代に既に考案されていた(例えば、実全昭47-022792)ので、
アイデア自体は古くからあったといえるね。
つまり、不織布をマスクに使用するという基本的な特許権は(特許権の存続期間が出願から20年であることから)今は存在せず、
それだけなら、だれでも自由に製造することができる状態といえる。
マスクの不織布は、トイレットペーパーと同じ??
スタッフA:ちょっと基本的なことを聞いていいですか?
不織布ってなんですか?
弁理士須藤:簡単に言うと、字で示す如く、「繊維を織らずに絡み合わせたシート状のもの(JIS L0222では、紙、フェルト、編物を含まない)をいう。ウィキペディアより」とのことだよ。
スタッフA:マスクの生地を見ると、
何となく紙に似ているような気がするのですけど・・・
また、不織布のマスクが使い捨てなのは、
紙と同じで洗うと溶けてしまうから使い捨てなのかな・・・
なんて思っていたのですが、
そのあたりは最近のトイレットペーパーの買い占め騒動でとても気になります・・・
弁理士須藤:共通点は、確かにあるね。
マスクもトイレットペーパーも共に織物でもないし、編み物でもない。
でも、以下の点で異なるんだよ。
不織布のマスクは、先に言ったように、
石油由来のポリプロピレンやポリエチレンからできている。
このため、不織布のマスクは、基本的に水に溶けずに水をはじいちゃうんだよ。
でも、一応、水洗いは可能ではあるようだね。
ここで、使用前のものと使用後水洗いして乾かしたものとを示すけど、
形が若干崩れるくらいで済むので、再利用できないわけではないかな。
ただ、洗って汚れやウィルスが落ちているかどうかはわからないし、
洗うことでマスクが損傷したり、
ウィルスをばらまいたりしているかもしれない。
少なくとも、目が細かいこともあり汚れやウィルスが落ちにくいこと、価格が安いこと、
などから不織布のマスクは洗って再利用するのではなく、
使い捨てになっていると考えられるかな。
不織布マスク(使用前) | 不織布マスク(使用後水洗い後、自然乾燥) |
一方、紙は、木材由来の繊維、パルプからできている。
だから、紙を用いて、水で溶けるトイレットペーパーなんかがあるんだね。
つまり、マスクと紙とは原料が全く異なるので、
マスクが不足しているからといって、
トイレットペーパーが不足することには繋がらないんだよ。
確かに、不織布マスクは、外国(主に中国)からの輸入数が
国内生産量の約4倍になっている(一般社団法人日本衛生材料工業連合会の統計情報より)ので、
中国から輸入数が減ってしまうと、国内のマスク数が大きく減ることになる。
しかし、トイレットぺーバ―の製造場所は、ほぼ100%国内で、
輸入される木材はほとんどが中国以外となっているんだよ
(トイレットペーパー製造に中国は関係なかった~騙されないための「日本産業論」教室より)。
だから、間違っても、トイレットペーパーを、
噂に惑わされて、買い占めなんかしないようにしてくださいね。
たくさん売れるには何がきっかけ?
スタッフA:Q(quality)とC(cost)とは、理解しましたが、
D(delivery)の部分はなんでしょうか?
弁理士須藤:それは、花粉症対策と、2002年に発生した新型肺炎のSARS(重症急性呼吸器症候群)対策とで、多くの人がマスクをつけるようになったと言われているんだよ。
スタッフA:なるほど。
D(delivery)はタイミングが良いこと、という感じですか?
確かに、タイミングは重要ですよね。
明細書でどこをみれば、発明のポイントが分かるの?
スタッフA:D(delivery)についても知ることができました。
ありがとうございました。
・・・・
あーっ、と聞き忘れるとこでした。
実は、
ユニ・チャーム株式会社の特許・実用新案を検索したのはいいのですが、
具体的に、なんの発明なのかがよくわからないのです。
つまり、マスクの発明で、明細書のどこを見れば、
その明細書に書いてある発明のポイントが分かるのでしょうか?
弁理士須藤:正確に理解するのには、【特許請求の範囲】の各【請求項】に記載された発明を読み解くことが必要なんだ。
ちなみに、【請求項】を読んでみたかな?
スタッフA:ちょっと読んでみましたが、
はっきり言うと、理解ができませんでした。
だって、
一文で書いてあって、
どことどこの部分がどうゆう関係なのか複雑なのですよ。
しかも、技術的な用語も出てくるし・・・・
弁理士須藤:・・・、なるほどね。
請求項の内容を理解をするのに、以前、別のブログを記載したので、時間があるときに、そちらをぜひ読んでみてくださいね。
さて、ざっくりとであれば、その出願の【要約書】の【課題】をみることで、その発明が何を解決したいのかが記載してある。
だから、私も特許調査で各特許出願がどのような発明であるかを分類する際には、
この部分を見て判断するようにしているんだ。
以下に、Aさんが見た67件について課題の違いで、いくつあるかを整理して示してみるよ。
ちなみに、これは、以前のブログで記載したパテントマップの1つです。
捕集性能、 通気性能向上 |
デザイン性 | 低刺激性 | 隙間低減 | フィット感向上 | その他 |
11 | 8 | 4 | 15 | 13 | 16 |
スタッフA:なるほど。
こうすると、各特許出願が何を目的・課題として発明されたのか一目でわかりますね。
弁理士須藤:そう。
このパテントマップからは、
ユニ・チャーム株式会社が
これまで何の発明に重点をおいているかが判断でき、
これまでの知財戦略を知ることができるというわけなんだ。
・・・
とにかく、この新型肺炎の騒動は、なるべく早期に収束することを願おう。
そのためには、手洗いやうがいをこまめして、まずは自分が新型肺炎にかからないよう気を付けていかないといけないね。
それが、自分のためでもあるし、新型肺炎の早期収束にもつながるからね。
スタッフA:私も気を付けたいと思います。
まとめ
マスクの普及のキーとなる特徴と特許との関係の解説の要点は以下のようになります。
- マスク普及につながった特徴として、高機能化、低コスト化、がなされたこと。
- トイレットペーパーは、マスクの不織布とは材料が全く異なり、生産地と材料は中国にほとんど無関係であること。
- マスクが沢山売れるきっかけが、花粉症対策と2002年のSARSであったこと。
- 要約書の【課題】を見ることで、多くの発明の目的・課題を容易に理解でき、
それらを集計してパテントマップを作製できること。
もし、わからない部分や疑問点などありましたら、
お気軽にぜひコメントまたはお問い合わせくださいね。
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