【スタッフ視点の知財ブログ(13)】
2020年5月25日、日本全国に対して発出されていた緊急事態宣言が解除されました。
この新型コロナウィルスによる緊急事態宣言のされていた期間に、弊所においてもテレワークを行っていました。
その際に、弊所で毎日使用していたのが、アメリカ発でありながら、今では日本国内ですっかり有名になった「ZOOM」というネーミングのオンラインビデオ会議ツールです。
じつは、この「ZOOM」というネーミングは、
アメリカで国際登録出願がされたことで、日本で商標権として保護されているのですね。
そこで、今回は、
「ZOOM」を使用したスタッフNさんに簡単に「ZOOM」の概略を報告してもらい、
「ZOOM」のように国際的に使用されるネーミングを保護するための国際登録出願について説明していきます。
これを読むことで、
- 国際登録出願とは、国際条約であるマドリッド協定議定書の加盟国内で商標を保護するための出願であること。
- 国際登録出願には、出願コスト、管理コスト、審査の透明性などの利点があるが、欠点もあること。
- Global Brand Databaseは、世界中の商標を概略的に調査するのに適していること。
が理解できるようになります。
少しでも知財の力を活用していただければ幸いです。
テレワークで初めて使用したオンラインビデオ会議ツール「ZOOM」とは?
スタッフNです。
弊所は、今回の非常事態宣言の間に、スタッフ全員が交代で事務所に出勤をするような形態をとりました。
このため、滞りのない業務を遂行するために、テレワークを行う在宅勤務者と出勤者との間で、
オンラインビデオ会議システム「Zoom」を使用していました。
私自身は、このとき初めてこのようなオンラインビデオ会議ツールを使用しましたが、
感想として、とにかく便利です。
このため、私自身も、高校時代の友人達などとオンライン飲み会をゴールデンウィーク中に開催したり、
実家の両親、兄弟、義両親とオンラインで何度か話すということでも利用するようになり、
一気にオンラインビデオ会議ツールが生活の中に定着してしまいました!
なお、「ZOOM爆弾」などが騒がれ、
このオンラインビデオ会議ツールにはまだまだ課題や改善点はいろいろあるとはいえ、
①聞くだけ・話すだけでなく双方向のやり取りが可能であること、
②PC画面の共有や録画が可能なこと、
③40分まで無料で使用できること、
④有料版でも、アカウント料が従来のテレビ会議ツールと比べて非常に安価であること、
等様々な面で画期的なツールだと思います。
そして、このオンラインビデオ会議ツールは、こういったテレワーク需要だけでなく、
今後オンラインの学習支援にも乗り出そうとしているようですね。
実際、自分の子供の習い事、塾の授業も「Zoom」を使用してオンラインで再開されており、
子供が通う小学校からもオンライン授業に関するアンケートが全生徒対象に実施されている最中です。
というわけで、
このような人気のオンラインビデオ会議ツール「Zoom」についての国際的な商標権について、
今回は調べてみました。
「Zoom」は、アメリカの会社(ズームビデオコミュニケーションズ、英文: Zoom Video Communications, Inc.)が出願した商標であり、
右に示すように、
青色で親しみやすく可愛らしいスタイリッシュなロゴが特徴です。
WIPO(世界知的所有権機関)が提供しているGlobal Brand Databaseで検索してみると、
「Zoom」の青いロゴは、2017年8月4日にアメリカから国際登録出願がされ、
日本で権利化されています(2020年5月29日時点)。
ただし、他のいくつかの国では、「Zoom」の青いロゴは、この国際登録出願の制度を使用しないで、
商標出願がなされているようです。
今後、経済や学校等が再開しても、すべてが元通り、というわけにはいかないと思います。
そんな中で、あらゆる分野でこのようなツールによるオンライン化が今後益々発展するようなが気がします。
私も、時代に遅れずに使いこなしていきたいと思っています。
国際的に使用されるネーミングの保護をする国際登録出願の説明
国際登録出願とは?
弁理士須藤:緊急事態宣言の出ていた間のリモートワークは、いきなり実施したこともあり、
スタッフの皆さんはいろいろ大変だったと思います。
なにせ、私を含めた他の弁理士パートナーもわがままで、いろいろことをお願いしたからね。
・・・
さて、
Nさんの言っていた国際登録出願とは、どういった内容のものかは知っていますか?
スタッフN:もちろんです(一緒に研修を受けたし、担当しているのですから・・・)。
・・・・
国際登録出願とは、国際登録を受けるための(商標)出願のことです。
そして、国際登録とは、
商標の国際的な保護についてとりまとめた国際条約であるマドリッド協定議定書に基づく商標の国際登録のことで、
先に出てきたWIPOが国際事務局として管理しています。
弁理士須藤:そのとおりだね。
つまり、国際登録出願とは、
国際条約であるマドリッド協定議定書の加盟国内で商標を保護するための出願であり、
マドリッド協定議定書に規定された要件に沿って手続きを行うことで、
商標を保護することができるんだね。
ところで、マドリッド協定議定書の加盟国には、日本やアメリカ以外には、他にはどんな国があります?
スタッフN:加盟国は、現在(2020年1月15日時点)106で、
欧州連合、中国、韓国など含みます。
ただ、台湾が含まれていないことには、注意しないといけないと思います。
弁理士須藤:そうだね。
いままで、台湾に出願したいという相談は結構あったからね。
そういった際には、加盟していない他の国と同様に、従来通りに現地代理人に依頼して、現地から商標出願(直接出願と称します)をしてもらうことになりますね。
国際登録出願の利点と欠点
弁理士須藤:国際登録出願では以下に述べるような5つの利点がある。
- 本国官庁(例えば、日本人なら日本特許庁)で、複数の加盟国に同日に一括して同一出願が可能であること。
- 願書は1通(ただし、日本語でなく英語、フランス語、スペイン語のいずれか)でよいこと。
- (拒絶理由がないという条件で)登録まで現地代理人が不要であること。
- 商標権の更新や名称の変更は国際事務局で一元管理されること。
- 各国での商標の審査期間は一定期間(出願日から最大18ヶ月以内)内にされること。
これらの利点により、従来の直接出願よりも、出願コストや管理コストを安くできる可能性があり、
かつ審査結果も迅速に得ることができる(審査の高い透明性)と言われている。
だから、弊所でも、特に中小企業のお客様が複数の国で権利化をするような際には、
コストを低減できる可能性が高いので、
このマドリッド協定議定書による国際登録出願をすすめることが多いんだよ。
スタッフN:そうなんですね。
たしかに、このような利点からすれば、従来よりも圧倒的に良さそうですね。
でも、マドリッド協定議定書による国際登録出願ではなく、直接出願も依然として多いよう思います。
例えば、先に述べた「ZOOM」でも、国際登録出願で権利化されたのは日本だけで、それ以外の国に対しては直接出願がなされています。
それは、なぜでしょうか?
弁理士須藤:考えられる理由は以下の5つかな。
- 商標出願したい国が加盟していない(加盟国が少ない)。
- 基本的に各国毎に審査が行われるので、国際登録出願の単一の書式、同一の内容では
不利になってしまう場合があること(特に、アメリカや中国など)。 - 各国の審査で拒絶理由が通知された場合には現地の代理人を選定する必要があり、
直接出願よりもコスト高となる場合があること。 - 出願国が少なくて、直接出願よりもコスト高となる場合があること。
- 国際登録出願の日から5年間は、先に本国官庁に行った商標出願(基礎出願と称します)に従属するので、
5年以内に基礎出願が消滅すると、その国際登録出願については、
改めて直接出願をしないといけないこと(セントラルアタックと称します)。
スタッフA:確かに、それぞれの項目に思い当たります。
となると、直接出願にもそれなりの利点がありますね。
弁理士須藤:その通りです。
だから、お客様の事情を鑑みた上で、両方を説明し、
いずれが好ましいのかの提案をすることが、とても大切になってきます。
Global Brand Databaseとは?
弁理士須藤: Global Brand Databaseは、WIPOが提供している登録商標のデータベースです。
このGlobal Brand Databaseは、マドリッド協定議定書による国際登録出願だけでなく、各国における商標登録の情報も検索可能になっているのが特徴だね。
Global Brand Database(https://www3.wipo.int/branddb/en/)の検索画面を以下に示すけど、
SEARCH BYのBrandタグのtextの部分に、商標の文字をタイプして、searchボタンを押せば、
マドリッド協定議定書による国際登録出願の分だけでなく、
それ以外の直接出願の状況もある程度わかる。
だから、世界中の商標を概略的に調査するのに適しているといえる。
スタッフN:そうですね。ただ、各国の商標出願のデータが必ずしもすべて入っていないし、最新の情報とも限らないので、それにはちょっとだけ不満を感じます。
弁理士須藤:うーん、その通りだね。
だから、そのあと、別に調査したい国の特許庁が提供するデータベースで商標を検索する必要が出てくる。
もちろん、有料のデータベースを用いて各国の商標調査をしてもいいのだけどね。
ちなみに、WIPOからはもう一つ、商標検索のデータベースが提供されていますね。
それはなんだかわかりますか?
スタッフN:もちろんです。
それは、マドリッド協定議定書による国際登録出願に対する権利状況を調べるもので、
Madrid Monitorです。
これは、対象となるデータが国際登録出願に関する商標の情報だけなので、とてもわかりやすいです。
弁理士須藤:そうだね。
Madrid Monitor(https://www3.wipo.int/madrid/monitor/en/index.jsp)の検索画面を以下に示すけど、SEARCH タグのSearch forの下のブランク部分に、商標の文字をタイプして、レンズボタンを押せば、
マドリッド協定議定書による国際登録出願の権利化状況がわかる。
だから、国際登録出願だけを対象として、現状権利がどの状態にあるのかを調査をする上では大変便利だと思う。
スタッフN:そうですね。
これからは、もっと意識して使い分けでいきたいと思います。
弁理士須藤:緊急事態宣言があると、形のあるモノの移動は制限されてしまうけど、商標権のような形のない知的財産権には、そんな制限がなく、簡単に国境を越えて広まってしまいます。
だから、こういった事態があっても、
弊所では、知的財産権の保護や活用に対する支援体制を、いつでも提供できるように心がけていきましょう。
まとめ
国際的に使用されるネーミングを保護する国際登録出願について、以下のような説明をしてきました。
- 国際登録出願とは、国際条約であるマドリッド協定議定書の加盟国内で商標を保護するための出願であること。
- 国際登録出願には、出願コスト、管理コスト、審査の透明性などの利点があるが、欠点もあること。
- Global Brand Databaseは、世界中の商標を概略的に調査するのに適していること。
もし、わからない部分や疑問点などありましたら、お気軽にぜひコメントまたはお問い合わせください。
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