【スタッフ視点の知財ブログ(14)】
緊急事態宣言が解除されましたが、コロナ禍にまだまだ油断の出来ない日々が続いています。
弊所の位置する東京都では、6月1日から毎日10人を超える感染者が判明しています(6月10日時点)。
こんな状態ですが、事業を行っている方は、それぞれ感染に気を付けて事業の再開をしています。
その際に、マスクの着用、まめな手洗いなどの注意喚起がなされ、
街のいたるところで『仕切り』が見かけられるようになりましたね。
そこで、今回は、
スタッフTさんに『仕切り』に対する考えを報告してもらい、
『仕切り』を例として、急に需要が拡大した商品に対して知財的な考察をしていきます。
これを読むことで、
- 意匠の調査では、物品の分類を示すDタームを用いることで効果的な調査実施できること。
- 『仕切り』のようなものに対する特許取得は、多機能化やシステム化だけでなく、単純な構成でも可能性はあること。
- 『仕切り』に対する新たな商標には、同時期に使用された用語に類似させたネーミングを用いることが良いかもしれないが、ネガティブなイメージのついた用語には注意が必要なこと。
が理解できるようになり、急に需要が拡大した商品のさらなる差別化を実現することが可能になります。
少しでも知財の力を活用していただければ幸いです。
街中で、『仕切り』が特に目立っています!
スタッフTです。
年明けから続くコロナ禍。
緊急事態宣言が解除されたあと、町の行きつけのお店も漸くぽつぽつと開いては来ましたが、
悲しいことに今回のコロナ禍が元で閉店を決定してしまったお店も…
しかしそんな中でも生き残ったお店は、アルコール消毒や体温測定、入店人数の制限にテイクアウトの実施…と、
様々な対策を立てながら、安全にサービスを提供する工夫をしていて、その努力に本当に頭が下がります。
そんな工夫のなかで、特に街中で目立つのは、透明なビニールやアクリル板で作られた、
感染防止用の『仕切り』ではないでしょうか。
最初の頃はいかにも、『店員さんがバックヤードで一生懸命作ったんだろうなあ…』
と思わせる手作りのものが多かったこの『仕切り』ですが、
最近はだんだんと工場生産の商品も増えてきたようです。
私たちの事務所にも、席と席の間に立てる透明仕切り板などの広告が続々と届くようになってきました。
話題になったマスクや、テイクアウト用の包装容器もそうですが、
この『仕切り』に関する商品もまた、このコロナ禍をきっかけに新たな市場を開拓したような気がします。
これに伴い、これから先は、衛生を目的とした『仕切り』に関する知財の出願、
意匠のみならず、特許、実用新案や商標の出願は、あらゆる分野で増えていくのかもしれません。
『仕切り』、
と聞くと従来は何だか冷たいイメージがありましたが、
今回新たに出てきた『仕切り』は、
人と人との心を隔てるものではなく、お互いの安全を守るための商品として、
どんどん成長してくれるといいなと思います。
『仕切り』に対する知財的な考察
意匠権の調査について
弁理士須藤:Tさんが感じるように、『仕切り』が日常生活のいたるところで目に付くになりましたね。
『仕切り』は、透明シートや透明アクリル板であっても、形のあるものなので、当然意匠権で保護することができます。
では、ちょっと、『仕切り』の意匠権がいくつぐらいあるのか調べてみてください。
スタッフT:了解です。
じゃ、下に示す特許情報プラットフォームの意匠検索(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/d0100)
を使用しますね。
検索項目を「意匠に係る物品/物品名/原語物品名」にして、「仕切り」を代入して検索すると
・・・・
でました!
1371件ありますね(2020年6月12日)。
でも、数が多いせいか、私のイメージしていた『仕切り』はあんまり見当たらないような気がします・・・・
弁理士須藤:その理由は、以下に示すように2つあります。
- 「意匠に係る物品/物品名/原語物品名」は、出願人が勝手に付けることができる。
このため、同一物品でも物品名が異なる場合があること。 - ここでは、単に物品に使用されている用語を検索しているに過ぎない。
このため、「仕切り」に使われる部材なども含まれること。
まずは、Tさんがイメージしている「仕切り」が一般的にはどう呼ばれているのかを複数並べて代入して、もう一度検索してみてください。
スタッフT:了解です。
では、「仕切り パーティション 衝立」で検索してみますね。
・・・・・
でました!
1526件あります。
なるほど、検索結果には、確かに「間仕切り」も含まれていますね。
だた、弁当のなかの間仕切りやおかず入れみたいなものまで含まれています。
・・・
検索結果を調べるにも、結構大変そうです・・・
弁理士須藤:それらを除いた検索結果を確認することは比較的簡単です。
下に示すように、検索結果一覧の分類別で各記号毎(Dタームといいます、例えば、D-40など)に件数が示されています。
例えば、Tさんがいっている、弁当のなかの間仕切りやおかず入れの分類を示すDタームを外して検索結果を調べれば、意匠調査をもっと効率的に行うことができます。
なお、分類情報については意匠分類照会(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/d1101)を参照することで、どのDタームがどの分野であるかがわかります。
特許による権利化の可能性について
スタッフT:『仕切り』は、特許でも保護することができますよね。
今回、たくさん目に付くようになった『仕切り』とは異なりますが、
「ラーメンの美味しさを集中して楽しむための仕切られたカウンター席」
についての有名ラーメン店の株式会社一蘭さんよる特許(発明名称:店舗システム、特許4267981)が有名ですし(右図が発明の図面)。
弁理士須藤:そうですね。
『仕切り』には、例えば、透明なアクリル板に足をつけただけの単純なものがあるけど、そのような単純な『仕切り』であっても特許で権利化することは可能だと思います。
例えば、今よりも汚れにくくする、傷つきにくくする、倒れにくくする、軽くする、といったことは、これからもっと要求されていくだろうと思いますので、実用新案だけでなく、特許に至る発明も出てくると思います。
同時に『仕切り』の多機能化も進むと思いますよ。
例えば、遮光機能、発光機能、表示機能、音声機能などを
用途に応じて持たせ、
より局所的な宣伝広告をさせたりすることもあるかもしれません。
勿論、株式会社一蘭さんの特許のように、
『仕切り』が発明の一部となるようなシステム化された場合も増えてくると思います。
例えば、右の図で示すような特許(発明名称:隔離ユニット、特許5664132)がそれに該当するかなと思います。
『仕切り』に対する新たな商標の可能性について
スタッフT:そうすると、『仕切り』に関連した新しい商品ができれば、そのネーミングとして、新たな商標がつけられることも出てくるのでしょうね。
弁理士須藤:そうですね。
今回は、
パンデミック、新型コロナ禍、コロナ恐慌、ロックダウン、緊急事態宣言、3密、東京アラート、リモートワーク、ソーシャルディスタンスなどの言葉が非常に多く使用されたので、
こういった用語に近い、音、意味合い、見た目の用語を使用するネーミングが、
この時期に新たに生まれた『仕切り』などの商品に用いられる可能性があります。
理由は、いずれも同時期で『仕切り』の商品を想起しやすいからです。
ただし、今回の場合は、上記用語のうち、いくつかの用語をネーミングとして使用・流用するのは、
逆に敬遠される可能性があるかもしれません。
スタッフT:なぜですか?
今回、上記のすべての用語はかなり使用されて、『仕切り』などの商品にすぐに思い至りそうでよいようにも思えますが・・・・
弁理士須藤:うーん。
それは、
例えば、パンデミック、新型コロナ禍、コロナ恐慌、ロックダウン、緊急事態宣言、3密、東京アラートなどから想起されるイメージが
かなりネガティブなので、商品に対してネガティブなイメージがつく可能性があるからです。
商標などの知財だけでなく、ネガティブな印象を与えるような行為には、我々も気を付けていきたいですね。
まとめ
『仕切り』に対する知財的な考察を以下にまとめます。
- 意匠の調査では、物品の分類を示すDタームを用いることで効果的な調査実施できること。
- 『仕切り』のようなものに対する特許取得は、多機能化やシステム化だけでなく、単純な構成でも可能性はあること。
- 『仕切り』に対する新たな商標には、同時期に使用された用語に類似させたネーミングを用いることが良いかもしれないが、ネガティブなイメージのついた用語には注意が必要なこと。
もし、わからない部分や疑問点などありましたら、お気軽にぜひコメントまたはお問い合わせくださいね。
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