【スタッフ視点の知財ブログ(15)】
非常事態宣言の解除から、1か月経ちました。
東京では、連日、新型コロナウィルスへの新たな感染者が
100人を超えて判明しています(2020年7月5日)。
でも、季節は廻ります。
もうすでに7月となり、暑い夏がやってきます。
そのため、家飲みを含めて、涼しさを味わえるアルコール飲料を消費する機会が今後増えそうです。
というわけで、今回は、
スタッフMさんに、
お気に入り?のアルコール飲料「氷結」についての知財の調査をしてもらい、
「氷結」を例にした立体商標の解説をしていきます。
これを読むことで、
- 立体商標とは、識別機能を有する3次元形状の商標であり、
平面商標と立体形状、案内標識となる立体形状、立体形状、の3つに分類され、
この順番で登録が容易であること。 - 立体形状の立体商標は、
①局部的に特徴があっても有名であることを証明する必要があること、
②必要不可欠な形状でないこと、
が要件として必要なこと。 - 立体商標を取得する利点は、
①商標による商品の多面的な保護によるブランド保護と向上が可能なこと、
②立体形状に永久権が取得でき、対象商品を好きなだけ保護可能であること。
が理解できるようになり、
立体商標を視野に入れた知財ミックスを適用して、
自社製品のブランド力向上を実現することが可能になります。
少しでも知財の力を活用していただければ幸いです。
お気に入り?のアルコール飲料「氷結」
スタッフMです。
お酒はあまり飲みませんが、
夏が近づくこの時期になると
酎ハイ(アルコールが一番低いのもの)をわりと飲むようになります。
スーパーで手にとることが多いのは、
見た目だけで夏が感じられるキリンホールディングス株式会社の缶入り酎ハイ「氷結」です。
「氷結」といえば、缶のデザインが特徴的です。
タブを引くとパキパキッと、
まさに氷が砕けるような音がして、涼しさを感じます。
同時に、缶の側面がでこぼに変形する、
キラキラしたあのメタリック仕様の缶、
まさに作り立ての氷を手に持っているような感覚になります・・・
この缶は、東洋製罐株式会社で開発されたもので、「ダイヤカット缶」と呼ばれているようです。
特許情報プラットフォーム(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)で検索すると、東洋製罐株式会社は、「ダイヤカット缶」に関して、特許出願と意匠出願とを多数行っています(右図は、意匠登録第1636136号に記載された図です)。
つまり、東洋製罐株式会社は、自社の製品である「ダイヤカット缶」を多面的に知財で保護していると言えるでしょう。
一方、キリンホールディングス株式会社は、「氷結」「ダイヤカット」を商標登録しており(それぞれ、第5618273号、第5623785号)、左図に示す「ダイヤカット缶」については、立体商標まで取得しています(第6127292号)。
キリンホールディングス株式会社も、自社の製品である「氷結」を、商標という手段だけとはなりますが、やはり多面的に知財で保護していると言えるでしょう。
個人的には、「氷結」の漢字2文字にセンスが光り、
商品名と缶のデザインが素晴らしくマッチしていると感じています。
ちなみに、「氷結 ICE SMOOTHIE」は飲んだことありますか?
もちろん、お酒はあまり飲みませんので(笑)、
目撃すらしたことがないのですが・・・
いつかGETしたいです!
「氷結」を例にした立体商標の解説
立体商標とは??
弁理士須藤:確かに、Mさんはあまりお酒を飲まないようなので、「氷結」が好きと思いませんでしたので、意外でしたね。
・・・
さて、今回は、ここで出てきた立体商標について解説していきます。
立体商標といっても、商標であることには変わりがありません。
このため、立体商標も、自分の提供する商品・サービスと
他人の提供する商品・サービスと
が識別される機能(識別機能)を有する必要があります。
更には、立体商標は、その字が表すように、
文字や画像などの2次元的な商標(平面商標)とは異なり、
3次元的な形状を有することになります。
スタッフM:ちなみに、立体商標って、分類があるのでしょうか?
例えば、平面商標であれば、
文字と図形との組み合わせみたいなものがありますけど・・・・
弁理士須藤:そうですね。
そのような分類は確かにあります。
例えば、以下のような、3つがあるといわれています。
- 文字や図形とを組み合わせた平面商標と、立体形状と、を組み合わせたもの
- 立体形状のみであるが、案内標識とされているもの
- 立体形状のみ
1に該当するものとしては、
例えば、出光興産株式会社の第5181517号があります(右図)。
このタイプは、平面商標の部分に特徴があり、
識別性を出しやすいので、
最も権利化が容易といわれています。
2に該当するものとしては、
例えば、株式会社不二家の第4157614号があります(左図)。
通常、ペコちゃん人形で親しまれていますね。
これは、案内標識であるため、
当然のように目立つ形状と色彩が施され、人形自体に特徴があり、
権利化が比較的されやすいといえるでしょう。
3に該当するものが、今回の「ダイヤカット缶」となります。
これは、素材そのままの形状で、かつ特別な色彩も施していないので、
権利化することが極めて難しいとされています。
このタイプで登録されたものを、以下に示します。
例えば、株式会社ヤクルト本社のヤクルトの容器、
ザ・コカ-コーラ・カンパニーのコカ・コーラの瓶、
株式会社明治のきのこの山のきのこなどがあります。
第5225619号 | 第5384525号 | 第6031305号 |
立体商標は取得しにくい??
スタッフM:「ダイヤカット缶」の立体商標で気になったのですが、商標権が取得されるまでに、査定不服審判を行っています。
これは、なぜなのでしょうか?
弁理士須藤:その前に、
査定不服審判って知っていますか?
商標については、査定不服審判をあまりやったことはないですから、
あまり知らないかもしれませんが・・・
スタッフM:もちろん・・・
知ってますよ。
商標出願人が、特許庁から受領した拒絶査定に
納得できないときに行うものが査定不服審判です。
弁理士須藤:そうですね!
結果的に、「ダイヤカット缶」の立体商標は、
権利化するのにてこずったということです。
・・・
実は、立体商標の形状は、以下の2点を満足する必要があります。
- 立体商標は、たとえ局所的に特徴があっても、全体的な観点から、
一般的に用いられる形状であってはならないこと。
実は「ダイヤカット缶」(ヤクルトの容器、コカ・コーラの瓶、きのこの山のきのこも同様)は基本的にこれに該当してしまいます。
このため、本来であれば拒絶されてしまうのですが、
「ダイヤカット缶」は、この形状で商品を提供することで有名となり
「識別性」を有することを証明しました。
つまり、この証明のために時間がかかり、査定不服審判までする必要があった
ということなのです。 - 立体商標は、商品の必要不可欠な形状のみで構成されないこと。
商標権は、10年で更新されるものの、更新は何度でもできるので、
実質的に永久権であることによります。
不可欠な形状に永久権があると、
他人との自由競争を不当に阻害することになるから
登録できないこととなっているのです。
立体商標を取得する利点は何??
スタッフM:あの、
気になったことがあるのですが、
キリンホールディングス株式会社は、
なぜ「ダイヤカット缶」について、
立体商標を取得したのですか?
今までの説明から、
立体商標を取得するには、一般的な平面商標に比べて、
かなりの時間と費用と労力がかかるように思いますが・・・
弁理士須藤:その理由は、以下の2つだと思います。
- 「氷結」という商品のブランド保護と向上
Mさんも言ったように、
複数の商標(知財ミックス)による「氷結」の多面的な権利保護ができます。
「氷結」という商品に対して、「氷結」と「ダイヤカット」の平面商標、
そして、この「ダイヤカット缶」の立体商標があります。
このため、他社による「氷結」、「ダイヤカット」の使用を防止でき、
更には、この「ダイヤカット缶」を使用しての
他社の缶入り酎ハイ市場への参入を制限することができるからです。 - 「ダイヤカット缶」の立体商標が実質的に永久権であること
立体形状は、通常、意匠で権利を取得しますが、
意匠権は、出願から25年で消滅し、その後はだれでも使用できるようになります。
しかし、この立体形状は、商標権であることから実質的に永久権です。
即ち、キリンホールディングス株式会社は、
「氷結」だけでなく、缶入り酎ハイのすべての商品に対して、
実質的にこの「ダイヤカット缶」の形状を
好きな期間、独占的に使用することができるからです。
スタッフM:立体商標って、すごい権利なのですね。
・・・
これを開発した東洋製罐株式会社が、
この「ダイヤカット缶」について、
特許や意匠を出願しているのはわかっていますが・・・
しかし、東洋製罐株式会社自体が、
このような立体商標が取得できてもよいように思うのです・・・
弁理士須藤:実は、東洋製罐株式会社自体も、
この「ダイヤカット缶」について、
立体商標の出願をしています(商願2015-118897など)。
・・・
結果はというと、拒絶されました。
Mさんにもわかると思いますが、
あの「ダイヤカット缶」をみて、
東洋製罐株式会社の缶だ!
というように有名にすることはちょっと難しいと思います。
ということで、Mさんには不満かもしれませんが、
特許権と意匠権のあるうち(知財ミックス)は、
東洋製罐株式会社が「ダイヤカット缶」を独占的に製造できるので、
キリンホールディングス株式会社の「ダイヤカット缶」が有名になることは
とても喜ばしいことだと思います。
まとめ
立体商標を活用する際に留意すべき点は、
- 立体商標とは、識別機能を有する3次元形状の商標であり、
平面商標と立体形状、案内標識となる立体形状、立体形状、の3つに分類され、
この順番で登録が容易であること。 - 立体形状の立体商標は、
①局部的に特徴があっても有名であることを証明する必要があること、
②必要不可欠な形状でないこと、
が要件として必要なこと。 - 立体商標を取得する利点は、
①商標による商品の多面的な保護によるブランド保護と向上が可能なこと、
②立体形状に永久権が取得でき、対象商品を好きなだけ保護可能であること。
もし、わからない部分や疑問点などありましたら、
お気軽にぜひコメントまたはお問い合わせください。
この記事へのコメントはありません。