【スタッフ視点の知財ブログ(25)】
9月になりましたが、緊急事態宣言も継続されています。
このため、やはり不要不急の外出が避けられているせいか、自宅で楽しめるゲーム、漫画、アニメなどの需要が大きいようです。
そこで、今回は、
スタッフNさんに、Nさんのおうちの子供達にも大人気の「鬼滅の刃」や「呪術廻戦」を題材として、漫画・アニメに関して商標権を中心とした知的財産権について説明していきます。
これを読むことで、
- 雑誌へ連載開始がされても商標出願までの時間が長いのには理由があること。
- 出版社が自社の本業以外の商品・サービスで商標権を取る理由として、
作品自体のブランド保護のための側面もあること。 - 著作権の保護範囲は作品自体であり、商標権の保護範囲が異なり、
作品の名称やキャラクター名、フレーズなどは著作権では保護されないこと。 - 作品のなかでよく登場して作品を想起できる模様でも、
商標権を取ることが困難な場合があること。
が理解できるようになります。
少しでも知財の力を活用していただければ幸いです。
この夏は、ゲーム、漫画、アニメが中心?
スタッフNです。
9月に入り、我が家の子供達の長い夏休みもやっと終わりました。
今年の夏休みは、コロナ渦の中、気軽にレジャーで外出するわけにもいかず、
子供達のイベントも軒並み中止になったため、家の中で過ごすことが多かったです。
このため、子供達のゲームをする時間が長くなったことは勿論のこと、
漫画やテレビを見る機会が今夏は特に多かった気がします。
子供達は、昨年大流行した「鬼滅の刃」は言うまでもなく今でも好きで、
今秋TV放送される「鬼滅の刃」(遊郭編)も楽しみなようですが、
今は「呪術廻戦」に、もっとハマっているようです。
ということで、
今回は日本のお家芸とも言える漫画・アニメの商標登録について報告します!
まずは今子供たちがハマっている「呪術廻戦」。
株式会社集英社からロゴ(右図)にて登録(第6211543号等)されています。
またロゴだけでなく文字も出願(商願2021-63157等)されています。
「鬼滅の刃」についても同じく、株式会社集英社からロゴ(右図)にて登録(第6208244号等)と文字にて登録(第6260437号等)されています。
なお、「鬼滅の刃」では、アニメのタイトルだけでなく、「鬼滅の刃」のキャラクター6人が着ている服の模様が
同じく株式会社集英社から商標出願(下図参照)され、
このうちの3人(冨岡義勇、胡蝶しのぶ、煉獄杏寿郎)が着ている服の模様は、
商標登録されています(下図の後ろ3つ、第6397486号、第6397487号、第6397488号)。
しかし、
他3名のキャラクター(竈門炭治郎、竈門禰豆子、我妻善逸)が着ている服の模様(下図の前3つ)は、商標登録することができないことを伝える「拒絶理由通知書」が通知され、
現在、まだ登録はされていないようです(2021年9月20日)。
竈門炭治郎 | 竈門禰豆子 | 我妻善逸 | 冨岡義勇 | 胡蝶しのぶ | 煉獄杏寿郎 |
なお、ちょっと疑問に思ったのですが、
「鬼滅の刃」の雑誌への連載がスタートしたのが2016年2月15日であるのに対し、
2018年12月28日付で上記「鬼滅の刃」のロゴが商標出願されています。
また、
「呪術廻戦」の雑誌への連載がスタートしたのが2018年3月5日であるのに対し、
2019年1月7日付で上記「呪術廻戦」のロゴが商標出願されています。
何れも連載スタートしてから商標出願されるまで、結構なタイムラグがあるので、
その間に、他人が商標出願して権利化するおそれはなかったのかな?、
などと、つい心配になってしまいました。
漫画・アニメの知的財産権の解説
なぜ、雑誌へ連載開始がされても商標出願までの時間が長いのか?
スタッフN:早速ですが、
「鬼滅の刃」も「呪術廻戦」も、雑誌への連載開始の時期と商標出願の時期とが結構空いているように思いました。
やはり、
連載のヒットを確認したうえで、商標出願を行うようにしているのでしょうか?
弁理士須藤:うーん、確かにそういう面もあると思います。
やはり、株式会社集英社も、
年間を通すと、新たな漫画・アニメのタイトルだけでも相当な数を抱えていると思うので、
その全部について商標出願するのは、現実的とは言えず、その見極めが必要なのではないかな?とは思いますね。
また、漫画家・作家の意向も尊重するかと思いますので、
株式会社集英社が漫画家・作家の意向を確認することにも時間が必要なのかもしれません。
また、一応、漫画・アニメは、製作した段階で自動的に著作権で保護されます。
即ち、作品自体の真似は著作権で防止できるので、商標権を取るのに急がなくてよい場合が多いともいえ、
それほど急いで商標出願をしなくてもよい?という考えもあるかもしれません。
スタッフN:あのー、そもそもですが、
なぜ商標権を取るのでしょうか?
漫画・アニメが著作権で保護されるのであれば、
株式会社集英社の事業は本や雑誌の出版でしょうから不要な気もします。
なぜ、株式会社集英社は、商標で保護しようとしている商品、
例えば、おもちゃやお菓子やタオルなどについての商標権を取っているのでしょうか?
弁理士須藤:その理由は以下の2つの側面があるからです。
- 1つは、ライセンスビジネスのためです。
そういった商標権を有していることで、
それら商品・サービスを製造・販売・提供する事業者にライセンス許諾可能であり、
ライセンス料が得られるからです。 - もう一つは、その漫画・アニメの作品イメージやブランドを保護するためです。
株式会社集英社の意に沿わない商品・サービスに対して、
作品のタイトルなどが勝手に使用されることで、作品のイメージが悪くなり、
最悪作品自体の出版数の減少にもつながってしまうことを回避するためです。
逆に言えば、
ライセンスビジネスで、その作品のプラスの宣伝・広告を行うことが可能であり、
作品自体の出版数を増大させることも可能だからです。
著作権では、漫画・アニメのどんなことが保護できるの???
スタッフN:ちなみですが、
著作権の保護範囲を教えてもらってよいですか?
やはり、著作権で十分保護されないから、商標権を取るのですよね?
弁理士須藤:そうですね。
まず、
著作権は、思想又は感情を創作的に表現したものである著作物を保護するための権利です。
このため、漫画・アニメの作品自体は、著作物に該当して著作権で保護されます。
さらに、
漫画・アニメの特徴のある1コマ、創作的な1つの場面なども著作権の保護対象となると考えらます。
例えば、「鬼滅の刃」の上記6人の実際に描かれたキャラクターの画像の1コマは、
著作権の対象と考えてよいでしょう。
これに対して、
「鬼滅の刃」の上記6人の名前やタイトルや場所や短いセリフ・フレーズや劇中で出てくる模様などは、
著作権の保護対象外と考えられています。
その理由は、
それらが思想又は感情を創作的に表現したものに該当するとは考えられていないためです。
スタッフN:なるほど。
だから、株式会社集英社は、「鬼滅の刃」、「柱」、「滅」、「鬼殺隊」、「悪鬼滅殺」、「無限列車」、「キメツ学園」、「全集中」、「鬼滅」等のフレーズや、「炭治郎」、「禰豆子」、「善逸」、「伊之助」、「義勇」等の名前や、上記服の模様などを商標出願したのですね。
・・・
となると、
上記、ロゴなんかは逆に、「思想又は感情を創作的に表現したもの」とも思えるので、
著作権で保護でき、商標権を取得しなくてよいように思えますが、
この辺りはどうなんでしょうか?
弁理士須藤:そうですね。
ここで大事なのは、著作権と商標権との違いです。
以下に、その違いを示します。
著作権 | 商標権 |
製作した時点で著作権発生 | 出願し登録されてから、商標権発生 |
仮に同一の著作物が2つ存在しても、互いの著作権者が真似をせずに、独自に創作した場合には、両方とも同じように使用可能 | 審査を経るので、真似の有無に関わらず、同一するものとその類似するものまで、商標権者だけが使用可能 |
つまり、商標権を取ることで、同一・類似するのものを使用する行為に対して、
その商標権者はほかの人すべてに対して「やめろ!」と言いやすいのです。
このため、Nさんが言っているロゴや他人が真似したくなるものについては、
商標権を取ることが望ましいこととなるのです。
服の模様の違いで商標審査状況の違いがあるのはなぜ?
スタッフN:上記服の模様が商標出願された理由はわかりました。
ただわからないのは、6人の服の模様は、同一の日に出願されたのですが、
3人の服の模様だけがすぐに権利化されていて、残りはまだ審査中です。
この違いはどこからきているのでしょうか?
弁理士須藤:上記、6つの柄をもう一度、下に示します。
見てわかると思いますが、
権利化されなかった柄の3つ(前3つ)は、
模様的に連続反復する図形等により構成されたもののように見えるからです。
このような柄を地模様といいますが、単なる地模様と審査官が認定すると、
審査官は拒絶理由通知を出願人に通知するようになっています(参照:審査基準)。
これにより、
現在、権利化されなかった3つの柄については、再審査が行われているのです。
竈門炭治郎 | 竈門禰豆子 | 我妻善逸 | 冨岡義勇 | 胡蝶しのぶ | 煉獄杏寿郎 |
スタッフN:なるほど。
では、
前3つは「模様的に連続反復する図形等により構成されたもの」とは
みなされなかったのですね。
確かに、この3つは、
2次元的に無限に模様が広がっていくようなイメージはしにくいです。
ちなみに、「単なる地模様」だと、なぜ商標登録できないのでしょうか?
弁理士須藤:一般に使用され得るマークであって、
商標としての特徴を有せず、識別力がないと考えられているからです。
このため、
株式会社集英社は、権利化されていない前3つの模様は「単なる地模様」ではないことを、
令和3年7月に反論しているようです。
ただし、私的には、今回の反論だけで登録される可能性は低いと感じています。
ちなみに、権利化されなかった前3つの柄が有名であれば、登録される可能性は高くなります。
ただし、この有名というのは、
商標出願した商品・サービスに対して使用して全国的に有名であることが前提条件となります。
このため、現時点(令和3年9月時点)では、このような条件には該当しないですね。
ただ、前3つの柄は、「鬼滅の刃」のなかでは頻繁に出てくる柄なので、
今後の特許庁の判断と出願人の行動には大変興味があります。
まとめ
漫画・アニメに関する知的財産権を理解してもらうために、
次の点の解説をしてきました。
-
- 雑誌へ連載開始がされても商標出願までの時間が長いのには理由があること。
- 出版社が自社の本業以外の商品・サービスで商標権を取る理由として、
作品自体のブランド保護のための側面もあること。 - 著作権の保護範囲は作品自体であり、商標権の保護範囲が異なり、
作品の名称やキャラクター名、フレーズなどは著作権では保護されないこと。 - 作品のなかでよく登場して作品を想起できる模様でも、
商標権を取ることが困難な場合があること。
もし、わからない部分や疑問点などありましたら、
お気軽にぜひコメントまたはお問い合わせください。
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