「下町ロケット第2話」を特許の観点でかみしめる?

下町ロケット第2話

元営業マンでもある弁理士(特許の専門家)の須藤が、個人的な独断に基づき、感想などを以下お伝えします。

今回は特許や技術用語がふんだんにちりばめられていました。
でも、局部的に不明なことがあっても、緊張感は十分伝わってきましたね。

今回は、

  • 疑問点とわかりづらい用語の説明、
  • 特許関連についての疑問、
  • クロスライセンスについて、

説明し、下町ロケットの魅力に迫りたいと思います!

あらすじ

TBSのサイトに記載されている内容をそのまま、以下に記載します。

殿村(立川談春)の実家へ行き、『トランスミッション開発』という新たな夢を持った佃(阿部寛)。ギアゴーストのコンペで大森バルブに勝利するなど順調そうな佃製作所であったが、ギアゴーストがライバル企業のケーマシナリーから特許侵害の指摘を受け、コンペの話が白紙になろうとしていた。
特許侵害を指摘したケーマシナリーに話を持ち掛けたのは、佃製作所とも因縁のある弁護士・中川京一(池畑慎之介)だった……。
そこで、佃(阿部寛)は自社の顧問弁護士である神谷修一(恵俊彰)に相談すると、予想外な答えが返ってきた。ギアゴーストに全面協力することにした佃製作所だったが、度重なるトラブルに難航し、社内は不穏な空気に。特許侵害訴訟からギアゴーストは逃れることができるのか?
新たな挑戦に向け、歩きだす佃たちは果たしてどうするのか!

引用元:日曜劇場 下町ロケット あらすじ

疑問点とわかりずらい用語の説明

ギヤゴーストの伊丹社長が佃製作所に直接特許侵害の件を伝えなかったこと

よくわかりませんが、プライドがあり、どちらかというと内向的な伊丹社長の性格を、島津副社長や佃社長と際立たせたかったのかもしれませんね。
理由は、すぐに佃社長なら打ち明けたはず、と思ってしまったからです。

ホワイト・ナイト?

「白馬の騎士」の意。敵対的買収を受ける側の企業にとって友好的な第三者(企業、人)のこと。

引用元:ウィキペディア ホワイトナイト

M&Aで使用される用語らしく、好意的に買収してくれる企業らしいです。
一般の日本人には、なじみがなく、わかりづらいですね。

リバースエンジニアリング

他社製品を入手して、分解して構造・動作・機能を解析して、その他社製品の技術情報を明らかにすること。
これは、つぎのような場合に使用されます。

  • 他社の特許がいくつあり、その他社の実際の製品ではどれが使用されているのか確認する場合
  • 参考として他社の製品の機能や動作がどのようになっているかを知る場合

勝手に他社製品を分解していいの?と思われますが、自分で購入した場合には違法性はありません
ただし、保証期間だからといって、勝手に分解したものを修理依頼しても
一般には修理対象にならないことには注意してください。
なお、レンタル品については、所有権はレンタルした企業のものですので分解することはできません
決して、特許製品を丸パクリして製品化していいということではありません
ので、この点は注意してくださいね。

特許関連についての疑問

帝国重工が佃製作所に1カ月でエンジンバルブシステムを納品要求した件

あくまでもサンプル段階の提供要求と考えられますが、かなり強引ですね。
見ている方のなかには、憤りを感じた人もいたのではないでしょうか?
ただ、佃製作所はそのあと、このための研究開発費の調達に頭を悩ませるので、
このエンジンバルブシステムは、帝国重工に契約上、縛られない佃製作所の外販可能な製品の位置付けにしてるようです。

しかし、島津副社長のアドバイスのない段階における佃製作所の特許技術は、燃焼試験をクリアするまでにはいかなかったのですね。
それにもかかわらず、帝国重工は、帝国重工の内製製品よりも佃製作所のバルブシステムが優れていると評価していました。
だから、帝国重工の内製製品よりも佃製作所のバルブシステムが優れているところは、構造的のところだったのかなと思います。
これを考えると、帝国重工は客観的に特許の優劣を判断できるちゃんとした企業なのかもしれませんね。

帝国重工に佃製作所が納品したエンジンバルブシステムに対して島津副社長は発明者になれる?

発明者になる権利があります。
理由として、作中で、佃社長は、島津副社長の材料の紹介がなければこの製品はできなかった!といっています。
仮に、島津副社長が材料メーカの紹介だけしかしなかったとしても、島津副社長は、今問題となっているエンジンバルブシステムの問題点を理解し、その解決手段を思いつき、具体的な材料を提案したということになるのです。
発明者の一人といえると考えます。
佃製作所は、その点についてちゃんと島津副社長に誠意を見せたのではないかな、と思います。

しかし、佃製作所の開発スピードは、とてつもなく異常に早いですね。素晴らしい!

ケーマシナリーが、知財訴訟を起こして、同業他社を安く買収して規模を大きくしたこと

たぶん、そんなこと簡単にできるのか?と疑問を持った方もいたと思います。
答えとして、簡単ではないですが、狙いを付けて丁寧に調べることで可能になる場合があります。

よく調べるとほとんどの企業に何らかの知財の穴がある、といっていいでしょう。
大企業ではその穴が一般に小さいのですが、中小企業だと、知財にある穴を絶えず小さく保つことはかなり困難といえます。
その意味で、中小企業は、買収に長けた企業に狙われやすいといえます。

じゃ、狙われたら、終わる!
わけではありません
客観的な視点で、知財の穴を見つけ出し、小さくすればいいのですから。

知財の穴は、客観的に社内で評価してなくすようにしてもよいし、外部に定期的に依頼して評価をもらいなくすようにしてもよいと思います。

佃の商売下手は専売特許!

息抜きになる話でしたね()。
意味は、ご存じの通り、佃製作所しかできない得意なことという意味となりますね。
もともとは、明治18年(1885年)に制定された特許法のもとになる専売特許条例から来ています。
これに関係して弁理士の国家資格は、士業のなかで最も歴史が長いのです。

でも、社員全員が生き生きと仕事をしているのですから、佃製作所が一番の商売上手かもしれませんね。

クロスライセンスについて

車を修理する写真

用語の意味

互いの持つ特許権を互いに例えば無償で使用可能にする手法で、
これにより、互いの特許侵害訴訟を回避することを可能にできます。

当然ですが、互いの特許権が同じぐらいの価値でないと互いに無償とはなりません。
その価値の考え方ですが、一方の主力商品にはもう一方の特許権が不可欠ですが、
もう一方の主力商品には一方の特許権があってもそれほど影響がないとなれば、互いに無償とはなりません。

この場合にはクロスライセンスとはならずに、単に一方がもう一方からライセンスされるということが適切かもしれません。

なぜクロスライセンスに持ち込むのに、ケーマシナリーの製品を分解して形状を精密に計測するのか?

ここでは、ギヤゴーストの特許権をケーマシナリーの製品が無断使用しているか否かを調べています。
このため、ケーマシナリーの製品を調査するために分解していたのです。
そして、同一の発明品は、同一の機能を有し、似たような形状となるので、
部品の形状を調べていたのです。

ただし、実務上は、特許権を決める特許請求の範囲には絶対的な大きさを記載することは稀です。
理由は、次の4つです。

  • 特許権が付与されるのは、技術的な考え(技術的思想と言います)である
  • 精密な形状だからといって優先的に権利化されるわけではない
  • 数値を限定しても特許性に寄与することは分野も用途も稀である
  • 数値を限定すると、逆に特許の権利の範囲が限定される

だから、他社製品の形状が問題であっても、その形状を測る測定装置は大体の形状がわかる程度でよいことになるのです。

作中では、ギヤゴーストの社員がミクロン単位の3次元形状まで接触して測定できる極めて正確な座標測定装置でケーマシナリーの部品を計測していました。
しかし、実務上は、ちょっとあり得ないかなと思いました。

佃製作所の用意する機械よりも測定に時間がかかり、融通が聞かない感じを演出するのには効果的ではありましたけど・・

そして、佃製作所では光で部品の影を投影する投影機を用意しましたが、
これで最初から測ることもあまりないと思います。

投影機は、部品形状一致で、ギヤゴーストの特許権をケーマシナリーの製品が無断使用しているか?
と思わせるための演出だったのではないでしょうか?
なにせ、この作業は、実際には、地味で映像映えするものではないのです。

実際の特許権の内容と対比の仕方は、別のブログに記載していますので、
ご興味のある方は是非、お読みください。
その記事はこちら 

同じ形状の部品なのに、なぜ構成部品数が異なると特許権侵害とならない?

佃製作所の立花が、投影機で、ケーマシナリーの部品とギヤゴーストの部品の形状が一致することを見出し、やったぞ! となりました。
みなさんもほっとしたとの思いましたが、部品数の違い(一体であるか複数であるか)で、侵害でないことが明かになりました。
大変、残念でした。

このことですが、通常は、部品点数(どこがどう分割されているかなど)はあまり特許権にかかわる記載部分(特許請求の範囲)には記載しません。
理由は権利範囲がその分狭くなるからです。

なぜ、島津副社長はそのような記載にしたのでしょうか?
考えられる理由は以下の4つです。

  • 分割できることを島津副社長が気づかず、かつ明細書を担当した弁理士も頭がまわらなかった
  • 分割できることを島津副社長が記載したが、明細書を担当した弁理士は書き落とし
  • 分割できることを島津副社長を気づかず、明細書を担当した弁理士は記載したが島津副社長の決定で分割可能の部分は削除された
  • 島津副社長と弁理士は部品は一体でないと権利化できないと考えたから

いずれかはわかりません。
しかし、弁理士としては、(自戒を込めて)なるべくクライアントの利益となるような提案をしてもらいたいと思いました。

クロスライセンスの可能性は、ギヤゴーストの顧問弁護士末長がいい出すべき?

その通りです。
当初、佃製作所はギヤゴーストに対して、この点を伝えずに佃製作所は当初罪悪感をもっていましたが、顧問弁護士として当然に末長弁護士がいいだすべきものでした。
いわなかった理由は、第4話で明らかになります。
言い訳として、反論資料を探す時間がないだろうといってましたが・・・。

まとめ

今回は、以下の気になる用語などについて、個人的な経験と知識とから書かせていただきました。

  1. 疑問点とわかりづらい用語の説明、
    ・ギヤゴーストの伊丹社長が佃製作所に直接特許侵害の件を伝えなかったこと、
    ・ホワイト・ナイト?
    ・リバースエンジニアリング
  2. 特許関連についての疑問
    ・帝国重工が佃製作所に1カ月でエンジンバルブシステムを納品要求した件
    ・帝国重工に佃製作所が納品したエンジンバルブシステムに対して島津副社長は発明者になれる?
    ・ケーマシナリーが、知財訴訟を起こして、同業他社を安く買収して規模を大きくしたこと
    ・佃の商売下手は専売特許!
  3. クロスライセンスについて、
    ・クロスライセンスについて。
    ・なぜクロスライセンスに持ち込むのに、ケーマシナリーの製品を分解するのか?
    ・同じ形状の部品なのに、なぜ構成部品数が異なると特許権侵害とならない?
    ・クロスライセンスの可能性は、ギヤゴーストの顧問弁護士末長がいい出すべき?

特許侵害などは、ないに越したことはありません。
しかし、侵害のおそれがあれば、クロスライセンスを思い出して対応策があると信じて落ち着いて下さい。

もし、わからない部分や疑問点などありましたら、ぜひコメントまたはお問い合わせください。

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