【スタッフ視点の知財ブログ(6)】
売りたい商品が真似されずに、自分だけが製造して販売できるようにするために、特許や商標などの知的財産権(知財)を活用して、その商品を保護すべきことは、当然ご存じだと思います。
でも、その商品に関連する技術やアイデアをどの程度まで、知財で保護すべきなのでしょうか???
そのような保護すべき範囲を知りたいと思いませんか?
そういった点で、Apple社の知財の活用方法は大変参考になります。
そこで今回は、
「iPhone」、「iPad」保持者のスタッフTさんに、Apple社のあまり目立たない小さな周辺機器に対しての、知財活用という観点で感心させられたことを報告してもらい、
それに基づいて、商品差別化のための知財活用方法を知りたい方に対して、
特に、今回は意匠権の観点で、目的とする商品を販売する上で、どの範囲まで知財保護を検討すべきなのかを説明していきます。
これを読むことで、
- 意匠の、特許と商標との違い
意匠は、「物品の美的外観」、ただし、一品ものでなく工業製品などが対象である。
意匠は、特許と同じく権利期間が有限、無限にできる商標とは異なる。
意匠は、見える部分に対しての権利、特許のように見えない部分は対象外である。
意匠は、物品とは切り離せない、商標のようにマーク単体では使用できない。 - 『ライトニングケーブル』に対する知財の活用状況
意匠だけでなく、特許、商標による多面的な保護を実現している。 - Apple社の意匠権による保護の範囲
お客様の動線を固めるという思想が大切である。
ことが理解できるようになります。
少しでも知財の力を活用していただければ幸いです。
Apple社における知財活用の観点で感心させられたこととは?
スタッフTです。
前回担当したブログ「Apple社の商品事例から学べる、売れるネーミングの観点」では、米国Apple社のタブレット、「iPad」のネーミングについて話題を提供しました。
今回は、別な側面からApple社の製品について知財活用の観点で感心させられたので、
そのお話をさせて頂きます。
皆さんは、
LANケーブル、ディスプレイケーブル、USBなど、電気機器のケーブルにはいちいち差し込む向きの区別があって、面倒だな…
と思ったことはありませんか?
特に私は、左写真のような「USB端子」を何故かいつも間違った向きで差し込んでしまうので、毎回大変なストレスに…(確率で言えば1/2のはずなのに!)
それに対して「iPad」や「iPhone」などの充電に使うケーブル、右写真に示す『ライトニングケーブル』は、
なんとその悩みを解消してくれる、
『裏表どちらの向きでも差し込めるケーブル』
なのです!
一見機能は地味に思えるかもしれませんが、使ってみるとその効果は絶大。
かつて使っていた携帯電話と違って、充電の操作も直感的に出来るのでラックラクです!
そして驚いたことに、Apple社は、「iPad」や「iPhone」といった製品のみならず、
この『ライトニングケーブル』の端子についても、きっちりとした意匠権を取得しているのです!(意匠登録1475090号)
つまり、Apple社は本命と思われるメインの製品の模倣品だけでなく、
製品を充電するためのケーブルなど、
付属品についても模倣品の販売を防ぐための手立てを講じている、
ということです。
意匠登録がされている以上、基本的にこの形の『ライトニングケーブル』を販売できるのはApple社のみで、
もしそれ以外の会社が『ライトニングケーブル』を販売したい場合は、Apple社へ対価を払ってライセンスを受けなければならない仕組みとなっているのです。
知的財産権を活用・保護、
と考えるとついついメインの製品のみに目がいってしまいがちですが、
このような小さな周辺機器に対しても知的財産権を取得して活用していくことが、
ビジネスの上では大事なことなのかも知れない…
と考えさせられました。
知財で保護すべき範囲の説明
意匠の、特許と商標との違い
弁理士須藤:Apple社は、自社の工場を持たないことで有名だね。
だから、その分、知財に注力しているようなので、Apple社の知財活用方法はとても参考になると思う。
ちょっと解説していこう!
・・・・
と、その前に、意匠について、簡単に説明しておこう。
意匠は、「物品の美的外観」とも言われており、この「物品の美的外観」を保護するのが意匠権なんだよ。
なお、この「美的外観」の意味は、芸術作品のような一品モノに対して感じる「美しさ」とは異なり、
大量生産が可能な形状に対して感じる工業的デザインに対する「美しさ」を意味している。
また、意匠法は、特許などと同じ創作したものを保護する法律で、単なるマークである商標とは異なる扱いをされているんだよ。
スタッフT:そうなんですか?
・・・・
じゃ、商標・特許とは、どのように異なるのでしょうか?
確かに、商標で最近は音なんかも保護されるようになりましたが、
商標は見えるものも保護するので、意匠と同じように使用でき、区別がつきませんが・・・
弁理士須藤:意匠は、商標や特許とは主に以下の3つの点で異なる。
- 意匠は物品と切り離せないけど、商標は原則的に物品に制限されない(立体商標は別)。
- 意匠権は、特許と同じく創作物を保護するので、時間が経つと陳腐化してしまうので、保護期間が有限(権利化から20年、しかし今年の法改正により、出願から25年となる)。
しかし、商標は、マークに化体した信用を保護するので、更新することで永久に権利を保持し続けることが可能。 - 意匠権は、物品の外観を保護するので、表に出ないところは対象外。特許権は、技術思想の保護をするので、見えていても見えていなくても保護対象となる。
スタッフT:そうなんですね。
だから、商品は、特許(実用新案を含む)や、意匠や、商標などで保護することができるのですね。
弁理士須藤:意匠は、外観が斬新であることが必要となるけど、
特許のように今までにない効果を求められない。
このため、目に見える物品に対しては、特許よりも広く保護することが可能といえるね。
スタッフT:なるほど。
だから、『ライトニングケーブル』に対しては、意匠権で保護されているのですね。
『ライトニングケーブル』に対する知財の活用状況
弁理士須藤:さて、『ライトニングケーブル』に対しては、Tさんが言っていたように、意匠登録1475090号が取得されているようだね。
でも、実は、『ライトニングケーブル』に対しては、意匠権だけがあるわけではないんだよね。
『ライトニングケーブル』は、『裏表どちらの向きでも差し込めるケーブル』なので、特許権を取得可能な要件を備えている。
また、『ライトニングケーブル』の形状にも特徴があるので、その特徴をマークにして、商標権の取得もなされているようだね。
実際に、特許庁の特許情報プラットフォーム(J-Plat-Pat)(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/t0100)を利用して、Apple社の特許、意匠、商標を検索する(2019年9月17日現在)と、以下のようになる。
権利 | 特許権 | 意匠権 | 商標権 |
総数 | 1703 | 789 | 483 |
ライトニングケーブルに関連する数 | 8(例、特許5877514など) | 21(例、意匠登録1475090など) | 少なくとも1つ(例、商標登録5590384など) |
スタッフT:そうなんですね。
すごいですね。
Apple社は、こんなに知財を活用、特許、意匠、商標のすべてを動員して製品を保護しているのですね。
Apple社の意匠権による保護の範囲
弁理士須藤:ちょっと、ここで、意匠権についてだけ、保護の範囲をみてみよう。
分類すると、以下のようになる。
用途 | 物品 | 代表的な物品形状 | 意匠権の数 |
広告 | 展示陳列台など |
意匠登録1635668 |
42 |
商品本体 | 端末、表示機、計算機など | 意匠登録1616875 | 492 |
付属品1 | ケースなど |
意匠登録1635431 |
24 |
付属品2 | コネクタなど |
意匠登録1475090 |
21 |
商品渡し | 包装袋など |
意匠登録1555894 |
19 |
スタッフT:えー、
コネクタだけでなく、展示用のテーブルや包装袋まで意匠権を取得しているですか???
ケースなどは多分、権利化されているとは思いましたが、
これほどに幅広く意匠権を取得しているのですね。
・・・
すごいですね!
弁理士須藤:そうだね。
Apple社は、工場を持たないから、知財がとても重要な財産なんだよね。
だから、意匠権を活用することで、
お客様が「iPad」や「iPhone」の自社の製品を目にし触ってみて、購入し、お客様が購入した製品を持ち帰るまでを、
自社の思想に基づいて、制御しようとしてるのだと思う。
このように、お客様の動線を知財で固めることで、
高品質な顧客サービスを維持でき、
自社製品のブランド力の増大と、
模倣する他社の参入を阻んでいるといえる。
まあ、ここまで、一貫して知財を活用できるに越したことはないけど、
お客様の動線を知財で固める、
といった思想はすべての企業に大変参考になると思う。
・・・・
余談だけど、
そういえば、先日(2019年9月10日)、「iPhone11」などが発表されたね。
『ライトニングケーブル』の特徴である、『裏表どちらの向きでも差し込めるケーブル』は、USB規格の「type-C」でも実現されているね。
昨年末に、「iPad pro」が『ライトニングケーブル』の代わりにUSB規格の「type-C」を採用したね。
このため、今回の「iPhone11」などでは、この「type-C」が採用されると思ったのだけどね。
スタッフT:「iPhone11」などでは、「type-C」が同梱のACアダプターに搭載されているようですが、急速充電のためのようで、『ライトニングケーブル』がなくなったわけではないようですね(注)。でも、なぜ、そう思ったのですか?
弁理士須藤:理由は2つかな。
- 「type-C」の規格策定には、Apple社の関係者がいたらしく、いずれApple社が採用すると世間でも思われていること(注)。
- Apple社は、過去に30pinのインターフェイスコネクタを『ライトニングケーブル』にいきなり変更した前例があること。
このため、Apple社は過去にとらわれない企業とも言われているんだよ。
Apple社は、まだ、独自規格である『ライトニングケーブル』に価値があるとして、周辺機器の開発に対して、商品差別化のために自社のコントロール(品質とロイヤリティの2面)を効かせようとしているのかもしれないね。
注:iPhone、ついにUSB「Type-C」を同梱のACアダプターに搭載 18Wの急速充電対応品を同梱(https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/column/18/00001/02878/?n_cid=nbpnxt_mled_ne)
まとめ
- 意匠の、特許と商標との違い
意匠は、「物品の美的外観」、ただし、一品ものでなく工業製品などが対象である。
意匠は、特許と同じく権利期間が有限、無限にできる商標とは異なる。
意匠は、見える部分に対しての権利、特許のように見えない部分は対象外である。
意匠は、物品とは切り離せない、商標のようにマーク単体では使用できない。 - 『ライトニングケーブル』に対する知財の活用状況
意匠だけでなく、特許、商標による多面的な保護を実現している。 - Apple社の意匠権による保護の範囲
お客様の動線を固めるという思想が大切である。
もし、わからない部分や疑問点などありましたら、お気軽にぜひコメントまたはお問い合わせくださいね。
なお、アイキャッチ画像はScioltofareさんによる写真ACからの写真です。
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