【スタッフ視点の知財ブログ(21)】
1月になり、再び緊急事態宣言が発出され、
不要不急の外出を控えることの要請がなされています。
それでも、日常品の購入は必要不可欠の行動であり、
そのためのスーパーマーケット等への買い出しは必要です。
そこで、今回は、
スタッフNさんの行きつけのスーパーマーケットの「COSTCO」を題材として、
ファンを増やせる商標権を取得するための留意点について説明していきます。
これを読むことで、
- 先願主義を理解すること。
先に使用していても、有名でないと保護されないこと。
そして、出願されていなくても、その商品・サービスに普通に使用される特徴などを
普通に表現した商標は登録されないことに注意すること。 - 出願する商標を決定する際に重要なことは、
会社名などとの標記と呼び名の統一性をもたせることで
社内管理の容易化、知名度の向上をはかること。
加えて、なじみやすさ、会社のコンセプトを含ませ、
可能であればストーリー性を持たせること。
が理解できるようになります。
少しでも知財の力を活用していただければ幸いです。
「COSTCO」は、なぜ「コストコ」?
スタッフNです。
2度目の緊急事態宣言が出された関係で、弊所でもテレワーク率が増えました。
不要不急の外出を控えるように、との通知がなされていますが、
やはり日常品は絶えず消費するので、
定期的に買い出しに出る必要があります。
というわけで、先日も、「COSTCO」
(下の商標は、2001年に出願され、現在のコストコホールセールコーポレーション;Costco Wholesale Corporation(以下単にコストコといいます)による登録商標)
に買い出しに行ってきました!
「COSTCO」についてですが、
「コストコホールセールは、高品質な優良ブランド商品をできる限りの低価格にて提供する会員制倉庫型店です。」
とのこと。(https://www.costco.co.jp/AboutCostcoより)
行くたびに、ついこのコロナ禍を忘れて、ワクワクしてしまっています!
COSTCOは英語ではTをほとんど発音しないので、「コスコ」と聞こえます。
つまり、アメリカで「コストコ」、「コストコ」といくら言っても全く通じません。
「日本上陸時に、中国遠洋海運集団が「コスコ」で既に商標登録していたため、敢えて「ト」を加えた「コストコ」を正式名称とした。」
(ウィキペディアhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%82%B9%E3%83%88%E3%82%B3より)との事です。
つまり、先に「コスコ」という名前を使用していても、
「コスコ」が先に出願されていれば、その前に出願をしたもの勝ちと言えます。
でも、
経緯に関係なく、「コスコ」という名前でなく、
「コストコ」という名前になってよかったとは思うのは、私だけでしょうか??
ファンを増やせる商標権を取得するための留意点の解説
先願主義とは?
弁理士須藤:私は行ったことはないのですが、
「コストコ」は、一度に大量に商品を購入するには便利のようですね。
・・・
さて、Nさんが上述したように、
商標を出願する上で最初に気を付けなければいけないのは、先願主義です。
先願主義は、たとえ先に使用していても、
出願していなければ商標権を得ることはできず、
先に出願した者に権利が与えられるという主義です。
これは、日本だけでなく、多くの外国で採用されている主義です。
ただ、この先願主義でも、気を付けるべき点があります。
それが何かわかりますか?
スタッフN:そうですね。
うーん・・・
やはり、使用に関することですか?
特許であれば、たとえ先に出願して権利化されても、
先に使用している人の権利を保護できるように定められています
(これを先使用権といいます)。
だから、商標でも同様な規定があるのでしょうか??
弁理士須藤:その通りです。
ただし、
特許とは異なり、使用している商標が有名である必要があります。
つまり、先に使用しているからといって、
有名でないとその人の使用する権利は保護されません。
だから、商標を取りたい!と思ったら、なるべく早く出願すべきなのですね。
・・・
ただ、ここではそれよりも重要なことがあります。
商標の場合は、
その使用されている商標が単に普通にその商品・サービスやその特徴を
普通に示すように使用されている場合には、
商標権を取れないことに、気をつけなければいけません。
例えば、「コストコ」を
「低コストスーパーマーケット」や「倉庫型スーパー」
なんていうネーミングにして商標出願した場合には、
商標権を取得することは困難だということです。
スタッフN:なるほど。
確かに、商標が
単に商品・サービスの内容を普通に説明するに過ぎないようであれば、
権利化されてしまうと、他の人が使用できないといった不利益がありますからね。
弁理士須藤:そもそも、そのような商標では、
誰の商品・サービスなのかという識別力
(これを、自他商品識別力といいます)がないので、
商標権としては認められないという側面もありますね。
本当に、他社の商標権が存在したから、「コスコ」にしなかったの???
弁理士須藤:ちなみに、
特許情報プラットフォーム(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/t0100)で、
「コスコ」という文字で商標権を取得している権利者を調べてみました。
すると、
現在、「コスコ」という文字の商標権(商品は紙類)を取得して、
そのまま存続しているのは、コストコが出願した商標だけなのです
(2020年1月18日)。
*コストコは、「コスコ」という文字で1996年10月に出願し権利化しました。
スタッフN:えっ、そうなのですか???
それなら、
コストコが「コスコ」を使用できた可能性はあったのですね。
弁理士須藤:ちなみに、
中国遠洋海運集団による登録商標には、
「コスコ」という文字を使用した登録商標はなく、
いずれも「cosco」の文字を使用しています。
更には、中国遠洋海運集団による商標出願は、すべて1998年以降になっています。
このような状況から考えるに、
コストコが「コスコ」を使用せずに、
「コストコ」で商標権を取得して使用している主な理由は、
別に存在するのかもしれませんね。
出願する商標を決定する際に重要なこととは?
弁理士須藤:勿論、コストコは、
「COSTCO」で1992年には出願し、
日本でも1995年には登録されています。
つまり、英語表記の「COSTCO」でも商標権を取得しています。
そして、2000年から日本語表記の「コストコ」で商標出願し、
商標権を取得しています。
スタッフN:日本でも、
「COSTCO」や上記ロゴについて商標権を取得しているのであれば、
日本語表記の「コストコ」の商標権を取得する必要もなかった
ような気もしますが・・・
どうしてなのでしょうね?
弁理士須藤:まずは、英語表記の「COSTCO」を取得することで、
自社名称の英語表記との統一性を取っています。
そして、「コストコ」という日本語の読みについて
商標権を取得することで、
その日本語での読みを統一させる狙いがあったのではないかなと思います。
スタッフN:どうしてでしょうか?
弁理士須藤:理由は4つあります。
- 日本語の読みを統一しておくことで、
社内の呼び名を統一できるので、呼び名の社内管理が容易になります。 - 社内で呼び名を統一していることから、
顧客が呼ぶ際にも、「コスコ」とは呼ばず「コストコ」とだけ呼ぶので、
結果的に知名度をより向上させることができます。 - 日本では、英語表記の際の文字列について、通常子音だけでも発音するので、
英語表記の「COSTCO」をコストコと呼ぶのが普通の感覚で、なじみやすい面があります。 - 上述したように、
「コストコホールセールは、高品質な優良ブランド商品をできる限りの低価格にて提供する会員制倉庫型店です。」
とあるように、「低価格」を特徴としています。
日本において、このコンセプトが「コスコ」と呼ぶよりも、
「コストコ」と呼んだ方がより伝わりやすいと考えられます。
- ちなみに、「コストコ」の社名は以下のように変化していったようですね(https://www.costco.co.jp/AboutCostcoなどより)。
- 1976年 SolPriceによって作られたPriceClubという名前の倉庫店でスタート。
- 1993年 PriceClubとCostcoとが合併して、PriceCostcoという社名。
- 1999年 Costco Wholesale Corporationという社名。
つまり、創始者の方の名前が、Price氏なので、
「コスト」という意味がはいった「コストコ」には、ストーリー性もあると言え、
この点でも覚えてもらいやすいといえます。
スタッフN:まさに、「コストコ」は「コスト」の子供ですね。
なんか、でっかい倉庫店なのに「コストコ」と聞くと、
かわいいイメージもわきますね!
今週末も、また、「コストコ」に買い物に行こうと思います(笑)。
まとめ
ファンを増やせる商標権を取得するために、次の点の解説をしてきました。
-
- 先願主義を理解すること。
先に使用していても、有名でないと保護されないこと。
そして、出願されていなくても、
その商品・サービスに普通に使用される特徴などを
普通に表現した商標は登録されないことに注意すること。 - 出願する商標を決定する際に重要なことは、
会社名などとの標記と呼び名の統一性をもたせることで
社内管理の容易化、知名度の向上をはかること。
加えて、なじみやすさ、会社のコンセプトを含ませ、
可能であればストーリー性を持たせること。
- 先願主義を理解すること。
もし、わからない部分や疑問点などありましたら、
お気軽にぜひコメントまたはお問い合わせください。
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