【スタッフ視点の知財ブログ(20)】
現在、スマホをほとんどの人が所有するようになり、
更に、今年はコロナ禍のために不要不急の外出の機会を減らすべく、
インターネット上でいろいろな検索を
いつでもどこでも手軽に行えるようになっています。
ということで、今回は、
スタッフAさんに、インターネット上での情報検索で気づいたことを報告してもらい、
それを例にして、ソフトウェアに係る特許権を取得する際の注意点について解説していきます。
これを読むことで、
- ソフトウェア関連発明がわかりづらいのが、
①請求項で使用されている文章が長いこと、
②発明の特徴が具体的な形として示されていないこと、
③コンピュータとの関係を記載しなければいけないこと、
によること。 - ソフトウェア関連発明が特許と認められるのに重要なのは、
①他の分野の発明と同様に、新規性、進歩性、産業上の利用可能性等が確保されているかどうかであるが、
②特に、発明が明確であること、発明に該当すること、
であること。 - ソフトウェア関連発明が特許権となった際の注意点は、
形がないことに起因する特許権侵害のわかりにくさであること。
が理解できるようになります。
少しでも知財の力を活用していただければ幸いです。
ローカル検索って便利ですよ!
スタッフAです。
最近は、コロナ禍のため、スマホの画面でGoogle Mapの状態にして、
自宅付近のお店を検索しています。
例えば、自宅の場所をGoogle Mapを表示させた状態で、
美容院を検索する(これをローカル検索と言うようです)と、自宅付近のたくさんの美容院が出てきます。
その際には、施術内容、サービス内容、スタッフ、写真、口コミや動画まで見れるので、
お店選びに便利で大変重宝しています。
よく、SEO対策、MEO対策?などと、と耳にすることがありましたが、
検索の上位に表示させるには、効果的なMEO対策をすることが必要なのだそう。
ちなみに、SEOとは、
「検索エンジン最適化(Search Engine Optimization)」の頭文字を取った言葉ですが、
MEOとは、
「マップエンジン最適化(Map Engine Oprimization)」の頭文字を取った言葉のようです。
また、MEO対策は、
ローカル検索の結果でGoogleマイビジネスに記載された情報が上位に表示されるように対策することをいうようです。
と、こんなことがきっかけで、ローカル検索に関しても特許があるんだろうか??と思い、
Google社(Google LLC)の出願状況を、特許情報プラットフォームで調べてみました。
すると、今まで特許出願が1469件あり、そのうち、
11件ほどがローカル検索に関するものでした(2020年11月27日)。
11件の内容すべては、MEOに関するものではないようですが、
例えば、発明名称「位置に基づく検索」においては、
位置に基づく情報を提供するための、コンピュータで実施される方法が、
特許権(特許第6543680号)とされていました。
ちなみに、以下の2つの図がそれらの特許内で示されています。
なお、MEO対策を十分にしても、Google社の使用する検索アルゴリズムは適宜に変更されるので、
常に同じ検索結果とはならないようです。
このため、MEO対策をする側は、検索上位に載せるためには絶えずその対応をしなければいけないようです。
いずれにしても、Google社によれば、SEOはサイトを訪れるユーザーのために行われるべき、
とのことです(MEOもそうなんだと思います)。
このため、対策する側は大変でも、
ユーザーである私にとっては、検索する度に、自分に合った最適な情報を手にいられるので、
昨今の検索エンジンは大変便利だなと感じています。
ソフトウェアに係る特許権を取得する際の注意点の解説
ソフトウェア関連発明はなぜわかりずらいの?
スタッフA:特許調査して思ったのですが、
MEOの分野でもたくさんの特許が出願されているようですね。
やはり、新たな技術の出現の陰に特許出願あり、という感じなのでしょうか・・・・
さて、
上述した特許権の図面自体は、何が記載されているかわかるような気がしました。
が、特許権の範囲を規定する特許請求の範囲の請求項1の文章(下記参照)を見ると、複雑でよくわかりません。
このような発明(ソフトウェア関連発明といいます)は、どうして理解しずらいのでしょうか?
(といっても、私が他の分野の特許を理解できるわけではありませんが(冷汗))
コンピューティングシステムにおいて、モバイルコンピューティングデバイスの地理的な位置を受信するステップと、
前記コンピューティングシステムによって、前記地理的な位置に対応する第1検索領域を選択するステップであって、前記第1検索領域は、検索領域群内の検索領域に対するスコアに基づいて、前記地理的な位置に対応する前記検索領域群から選択される、ステップと、
前記コンピューティングシステムによって、前記第1検索領域に対して最も関連性が高く順位付けされた第1検索結果を決定するステップと、
前記コンピューティングシステムによって、かつ前記第1検索領域に対して最も関連性が高く順位付けされた前記第1検索結果の決定に応答して前記モバイルコンピューティングデバイスにより受信されるように、モバイルコンピューティングデバイスに、
(i)前記第1検索結果を表すコンテンツ、及び
(ii)前記第1検索領域を示すもの
を提示させるための第1情報を提供するステップと、
前記コンピューティングシステムによって、モバイルコンピューティングデバイスでのユーザ入力が、前記第1検索領域を前記検索領域群内の第2検索領域に変更したというイ
ンジケーションを受信するステップと、
前記コンピューティングシステムによって、前記第2検索領域に対して最も関連性が高く順位付けされた第2検索結果を決定するステップと、
前記コンピューティングシステムによって、かつユーザ入力が前記第1検索領域を前記第2検索領域に変更したというインジケーションを受信することに応答してモバイルコンピューティングデバイスにより受信されるように、モバイルコンピューティングデバイスに、
(iii)前記第2検索結果を表すコンテンツ、及び
(iv)前記第2検索領域を示すもの
を提示させるための第2情報を提供するステップであって、前記第2情報は、前記第1情報とは異なる、ステップと、
前記コンピューティングシステムによって、ユーザ入力が、前記第1検索領域から前記第2検索領域に変更されたというインジケーションを受信したことに応答して、検索領域スコアの修正前よりも、前記第2検索領域が、前記第1検索領域に対してより関連性があるスコアとなるように、検索領域スコアを修正するステップと、
を具備することを特徴とするコンピュータで実施される方法。
弁理士須藤:そうですね。
その理由として、例えば、以下の3つが考えられます。
- 使用されている文章が長いこと。
- 発明の特徴が具体的な形として示されていないこと。
- コンピュータとの関係を記載しなければいけないこと。
1つ1つ説明しましょう。
まず、使用されている文章が長いのは、
ソフトウェア自体が、複数の処理が組み合わさって構成されているからです。
例えば、A、B、Cという3つの処理をするソフトウエアである場合には、A、B、Cの処理内容を○○ステップといったフレーズでそれぞれ定義し、更にその順番を定義する必要があるからです。
次に、発明の特徴が具体的な形として示されていないのは、
ソフトウェアには形がないからです。
文章のみで判断するので、ソフトウェア関連発明の内容を
イメージしにくいといえます。
なお、ソフトウエア関連発明の特徴を最も示している図面は、
フローチャート(右図参照)ですが、
その分野の人でなければ理解することは難しいかもしれません。
さらに、
コンピュータとの関係を記載しなければいけないというのは、
ソフトウエアが発明に該当する必要があるからです。
そのためには、
ソフトウエアによる情報処理がハードウエア資源を用いて具体的に実現されていることが必要です。
ちなみに、
「ソフトウエアによる情報処理がハードウエア資源を用いて具体的に実現されている」とは、
ソフトウエアとハードウエア資源とが協働することによって、
使用目的に応じた特有の情報処理装置又はその動作方法が構築されることをいいます。
なお、ハードウェア資源は、処理、操作又は機能実現に用いられる物理的装置又は物理的要素をいいます。
具体的には、ハードウェア資源は、物理的装置としてのコンピュータ、その構成要素である CPU、メモリ、入力装置、出力装置又はコンピュータに接続された物理的装置をいいます。
スタッフA:うーん、
言葉の定義が多く出てきてイメージできず、よく分かりませんが・・・・
・・・
とりあえず、ソフトウェア特有の特徴により理解するのが難しい!!
ということは理解できました。
ソフトウェア関連発明が特許と認められるには何が重要?
スタッフA:じゃ、ですね、
・・・
このようなソフトウエア関連発明が特許と認められるのには、どういったことが重要になるのですか?
弁理士須藤:ソフトウェアに限らず、審査においては、どのような発明でも、新規性、進歩性、産業上の利用可能性などが確保されているかどうかが、とても大切です(前回のブログの特許要件を参照ください)。
そして、ソフトウエア関連発明では、次に述べる2つの観点が特に重要です。
- 発明が明確であること。
発明は、「方法」の発明か「物」の発明かで記載する必要があります(これをカテゴリーといいます)。
ソフトウェアは、処理の順序なので、「方法」の発明として記載できます。
また、処理の順序の記載した「プログラム」やプログラムを記録する「記録媒体」としたり、
プログラムによって機能する「装置」や「システム」とすることができるので、
「物」の発明としても記載できます。
しかし、いざ、特許出願する際に、「方法」の発明に必要な要件と、「物」の発明に必要な要件とを
ごちゃ混ぜに記載してしまい、いずれのカテゴリーに対しても要件が不十分となり、
不明瞭になってしまうことが少なくないのです。
だから、ソフトウェア関連発明を「方法」の発明として出願するのか、「物」の発明として出願するのかを
明確に意識することが大切です。 - 発明に該当すること。
発明は「自然法則を利用した技術的思想の創作」である必要があります。
このため、全体として自然法則を利用しており、「自然法則を利用した技術的思想の創作」と
認められるものは、ソフトウエアという観点から検討されるまでもなく、「発明」に該当します。
しかし、そうでなくても、
上述したソフトウエアによる情報処理がハードウエア資源を用いて具体的に実現されていれば、
「発明」に該当します。
スタッフA:ということは、
請求項に「コンピュータ」や「CPU」や「メモリ」等のハードウエア資源が記載されていれば大丈夫なのでしょうか???
弁理士須藤:いや、
請求項にそれらのハードウエア資源が記載されていても、
ソフトウエアと協働した具体的手段等が記載されていなければ、
「発明」には該当しないことになります。
例えばとして、ソフトウェアにより、
どのハードウェアがどのような機能をいつ発揮するのかのといった記載などが必要になるわけです。
なお、ビジネスを行う方法に関連するソフトウエア関連発明(ビジネスモデル発明)についても同じで、
ビジネスを行う方法に特徴があるか否かという観点ではなく、
ソフトウエアによる情報処理が、ハードウエア資源を用いて具体的に実現されているかどうか
が「発明」に該当するかどうかの判断基準となります。
ソフトウェア関連発明が特許権となった際の注意点とは?
スタッフA:ソフトウェア関連発明が特許権となった際の注意点はなにかありますか?
弁理士須藤:そうですね。
特許権の侵害や模倣が、通常の「物」の特許権に比べてわかりずらいので、その点は注意すべきといえます。
その理由は、ソフトウェアはやはり目に見える形を有していないからです。
また、特許権の侵害や模倣の証明も比較的難しいおそれがあります。
例えば、A、B、Cという3つの処理をするソフトウエアの特許権の侵害が生じたさいに、
業者Aが、A、Bという2つの処理をするソフトウェアだけを販売しているだけで、
Cの処理をするソフトウェアが他の業者Bが販売する汎用的な物などの場合に、
業者Aが実際に侵害していることを証明しようとすることが、そのような場合に該当します
(これを間接侵害といいます)。
スタッフA:ということは、ソフトウェア関連発明は、権利化しても保護が十分にされない可能性があるのですね。
なんか、特許権の取得のために、労力を費やしても、あまり報われないような気もします・・・
弁理士須藤:・・・
確かに、その一面を否定はできないかもしれません。
でも、通常、事業の柱となるような発明は多面的に保護されます。
つまり、複数の特許出願や意匠や商標との組み合わせで、事業のアイデアを保護すべきであり、1つの特許権ですべてをカバーできることはないといえます。
だから、ソフトウェア関連発明の特徴を理解したうえで、事業成長にどう生かしていくかといった観点で、
出願、権利化そして、活用を検討してもらいたいと願っています。
まとめ
ソフトウェアで特許権を取得する際の注意点の解説の要点は以下のようになります。
-
- ソフトウェア関連発明がわかりずらいのが、
①請求項で使用されている文章が長いこと、
②発明の特徴が具体的な形として示されていないこと、
③コンピュータとの関係を記載しなければいけないこと、
によること。 - ソフトウェア関連発明が特許と認められるのに重要なのは、
①他の分野の発明と同様に、新規性、進歩性、産業上の利用可能性等が確保されているかどうかであるが、
②特に、発明が明確であること、発明に該当すること、
であること。 - ソフトウェア関連発明が特許権となった際の注意点は、
形がないことに起因する特許権侵害のわかりにくさであること。
- ソフトウェア関連発明がわかりずらいのが、
もし、わからない部分や疑問点などありましたら、
お気軽にぜひコメントまたはお問い合わせくださいね。
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